幕間 其の六

 幕間 其の六


 ―汝、強者たり得るか。


 狐面はそんな事を尋ねた―よく知っているはずだというのに。


 ―なれば、我が望み叶えて見せよ。


 狐面はそうも言った―その望みが何か、九織にはわかる気がした。

 敗着した故は、その同情か―否。腕では未だ九織が上。ならば故は別の所。


「二刀…か…。いや、また、妖刀に負けたのか……」


 姿が見えなかった―そして、狐面は太刀だけでなく脇差しまでも使っていた。


 そんな事を教えた覚えは無い―二刀などは教えていない。ならば、九織に隠れて自力で編み出したのだろう。


 誇らしくもあり―無念でもある。


 狐面は狂ってしまった―妖刀に呑まれたのだろう。その妖刀を手にした故も、面をつけだした故も九織にはわからない。いつの間にかその両を手に義賊になっていて―そして狂ったのだ。


 望み叶えて見せよ―切って欲しいと言われた。切ってやるつもりだった。だが結局、九織はまた妖刀に勝てなかった―切られてしまった。


 血は流れ落ちていく―望んでいた贖罪が九織の身に振り掛ろうとする。だが、無念―父の敵でありながら、九織を父と呼んだ子供を救えず、望みを叶えてやる事が出来ず、九織は果てるのだから。


「ねえ、良い考えがあるのだけれど、」


 誰かが、倒れる九織を覗き込んでいた。異国から流れついたモノ、ほとほと、人の弱みに鼻の利く女が、九織を見下ろして笑っていた。


「覇者の太刀。……この浄土にあるんでしょう?」


 酷く楽し気だ―本当に流血が好きらしい。


「欲しければ取ってきてあげるわ。私も見てみたいし……きっと、恐ろしい太刀なんでしょう?腕の立つ誰かが使えば、尚の事」


 何かが、九織の身体を這いずり回る―酷い嫌悪感、痛みだ。

 けれど、それによって傷が塞がってもいるらしい―異国の女は九織の傷を治したのだ。


 恐らく、意のままに使い倒したいが為に。


「それで、始末をつけて―後には貴方の夢、友の血に殉じてみては?」


 その言葉と共に差し出された手を、九織は握った。


 弱っていたが故か―否。どうしても、救ってやりたかったから。

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