幕間 其の五

 幕間 其の五


 不浄の名は、いつの間にか浄土に変わっていた―。


 許して欲しかった―否。罰して欲しかった。だからこそ、九織は伝えたのだ。


 お前達の本当の父を、俺が切ったと。


 許すとは言われなかった。けれど代わりに、許さないとも言われていない。


 中途半端だ。子供達―兄の方はもう子供と呼べる年でも無いかもしれない―は九織が考えていたよりも強かだったのか、二人の態度はまるで変わっていない。


 変わらず、九織を父と呼ぶ―何事もなかったかのように。

 あるいは、それが罰か―。


 がらり、戸とが開き、女が入って来た。見慣れぬ女―覚えがあれば思い出そう。それは異国の女だ。


 その女は、まっすぐと九織へと近づいてくる。


「貴方、殿様を切ったそうね」

「どこで聞いた」

「そんな事どうでも良いじゃない。それより、なんで切ったの?」

「……流れた血を無駄にしない為だ。若かったんだよ」


 九織がそう言うと、異国の女は酷く楽し気に笑った。


「若かった?見た所、老け込む年でもないでしょう?それに、それで許される罪で

 も無い」


 その通りだ、罪は罪。だからこそ、九織は罰を望んでいる―。


「でも、その考え方は嫌いじゃないわ。流血が好きなのね。私と貴方、気が合うわ、きっと」


 九織は何も言わなかった。


「流した血を無駄にしない為に、更に血を流す。良いじゃない。貴方は、貴方の隣で血を流した人は勝ちたかったんでしょうね。だから、そうまで歪んだ」


 女は依然楽し気だ。

 九織は耐え切れなくなり、言った。


「要件はなんだ」

「居場所がないの。しばしで良い。泊めて下さらない?ねえ、九織様。勿論、ただとは言わないわ」


 異国の女はそう言って九織へと手を伸ばし―けれどその手を、九織は払った。


「九織の名は捨てた。よそを探せ。うちは宿屋じゃない」


 手を払われた異国の女は、それでも未だ楽し気に笑っていた。


「あら、残念。じゃあ、宿は別を探すとしますわ……」

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