幕間 其の四

 幕間 其の四


「たあああああ!」


 掛け声と共に、子供が切り掛ってくる。その手にあるのは木刀―真剣ではない。


 これは、稽古だ。九織は稽古をつけていた。

 これが、言い使った役目か―違う。ただ、役目の一旦ではある。


 守護―それが役目。国なく無法者ばかりが集うようになったこの地で、ある兄妹を守り、育てる事こそが九織の役目。


 腕が立つ者である必要があったのだ。隠れて守る為には―いや、それともこれは罰かもしれない。


 この子らの父を凶刃に掛けた者として―贖罪ではあるのかもしれない。


 だから九織は投げ出していない―自刃していない。

 せめて、この子らが自分の身を守れるようになるまで―あるいは、託せる誰かに出会うまでは、死ぬことは許されないのだ。


 それが、せめてもの贖罪―


 ―九織殿。貴方がいれば、我らに負けはありませぬ。


 今でもその声は聞こえる―木刀であろうとも握る太刀は酷く重い。


 勝てたのか―勝てただろう。覇者の太刀があれば、負けは無かったはずだ。

 その思いは未だあせず―呪いのように付きまとう。


「兄上?」


 九織が稽古の途中で手を止めたからか―子供は不思議そうに首を傾げた。


「兄上はやめろといつも言ってるだろう?」

「では……父上」


 そう呼ばれて、九織は胸を掻きむしりたいような気分になった。


「父、だと…」

「はい。妹と話したのです。いつまでも九織殿では、他人のようですし……かと言って、兄上と呼ぶのはお嫌のようでしたので、では、父と呼ぶのはどうかと」

 子供は純真にそう言っていた。

 この子は、そしてその妹は知らないのだ。


 彼らの実の父を切ったのが、九織だと。だから慕っている。だから、九織を父と呼ぼうとするのだ。


 これで良いのか―そんな訳が無い。いずれ伝えねばならない。でなければ、九織の気は収まらない。だが、まだ危ない―逃げ出されでもしたら、九織であっても守り切れない。


 もうしばし、せめてこの地が不浄と呼ばれぬ様になった頃には―。

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