5 戯れが裏、真の思惑
5 戯れが裏、真の思惑
城が天手に明かりもつけず、杏奈は一人、窓から月を眺めていた。今頃、町は縁日の賑わい、貴条達は狐を追い掛け這いずり回る―だから今、城にはほとんど人が残っていない。
縁日も狐もただの方便―杏奈の狙いはただの人払いに過ぎない。
「縁日を口実に人払いとは、お陰で楽に入れた」
不意に、暗闇からそう声が掛かった―その事に杏奈は微笑み、応える。
「良い考えでしょう?鬱陶しい貴条も、狐を追わせればいなくなるし」
「才条は?」
「寝ていらっしゃるわ。もう、お歳だから。ふふ、まあ、どうせもうただの置物、起きていても別に構いはしないのだけど……」
そう笑って、杏奈は声へと振り向いた。
そこには、一人の男が立っていた。暗い色の装束に身を包み、狐の面をつけた男が。
「あら、面をつけるは良いとしても、わざわざ狐?人が悪いわねぇ、九織様」
そのからかいに男―九織は応えず、代わりに問いを投げかける。
「……それで、例の物は見つかったのか?」
「ええ。どうたぶらかしても、才条様が口を割らないわけだわ。知らなかったのよ。どこかにある事は知っていても、どこにあるかは知らなかった。だから苦労しちゃったけど…」
そう呟きながら、杏奈は窓へと歩み寄り―その向こうへと手を伸ばした。
と、不意にその手の先が揺らめく―まるで見えぬ布でもかかっているかのように。
「見えない刀があるのなら、見えない祠もあるのね」
そう呟く杏奈の目の前で、揺らめきは強くなっていき―やがて箱が現れた。
否、それは祠―天に浮かぶ宝物庫。その様に、九織は驚嘆の声を上げる。
「こんな、堂々と」
「ええ。でも、盲点でしょう?それにどんなに目だっても外からは見えないみたい…これを見つけた時、下に何人かいたけど気付かなかった。あるけれどない祠―見えず、触れられぬ宝物庫。それに、ただ人が触れても何をもおきぬ―異なり妖なる者が触れねば、ねぇ」
「ここに入っているのか。……覇者の太刀が」
「ええ。後は開くだけ。けれど、開く資格は私にない。貴方にも……」
「太刀守の血筋であれば?」
「開くわ。そうすれば、貴方の願いも叶う…」
呟いて、杏奈は振り返り、笑みを浮かべる。
「かつて失われた夢の続き……あったはずの勝利をここに。良いわ、そう言うの。とても醜くて……」
杏奈のからかい―しかしそれを、九織は取り合わない。
「一つ、尋ねたいことがある。なぜ、神那に鬼の子を攫わせた。必要があったのか?」
「そんな事?捕われなんて可愛そうじゃない?」
「もし、俺を裏切っているのなら……」
「探らせたからもう用済み?好きよ、そう言うの。でも、だから貴方の事は嫌い。だから、貴方の事は裏切らない。……理由でしょう?いいわ。あの子は、とても大切にされている。色々な人に守られている。でも、あの子が守るものって無かったでしょう?守られてばかり……それじゃあ、不公平。だから、あの子にも守るものを上げたの。愛着を抱く、弱い者を。簡単になくなってしまうものを」
囁いて―杏奈はこらえきれないとばかりに笑った。
「……弱みはわかりやすい方が良いじゃない。ねえ、背信の臣下さん」
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