4 華やぎの影に

 4 華やぎの影に


「く……逃がしたか……おのれ、助平め」


 陽はそう呟き、太刀を収めた。

 雪は溶けたとはいえまだ寒残り、流石に泳いで追い掛ける気にもならず―そもそも、陽とてこんな事をしている場合ではないのだ。


 縁日が影に狐を狩る―そう貴条は言っていたのだ。騒ぎの中ならば狐の尻尾も掴めようと。


 しかし陽はその役目から外されている。


 縁日を楽しめという心遣いか、はたまた力が足りないと思われているのか―。だからといって何もしないわけにはいかない。

 貴条は恩人、微力であろうと力になればと陽は太刀を手にしたのだ。役目から外されようと、役には立とう。

 そんな折に憎き犬の面を見つけつい追い回してしまったが……逃がしたならば仕方ない。狐がいないか見回るとしよう―。


 そう考え、陽は歩みだす。提灯の明かり、人の声は遠い―追いまわしている間に縁日の騒ぎから遠くなりすぎたか。辺りに人気はなかった。


 月明かりが差す―陽の影は薄く延びる。


 ざ。ざ。ざ。…不意の足音に、陽は顔を上げる。何者かが、近づいてきているらしい―。


「………何奴!」


 声を上げ、陽は太刀へと手を伸ばした。その声に応じるかの様に、足音の主は姿を現す。


 闇夜太刀佩く武人が前に、ぼうと現る狐面―――。


 白い面が浮いていた。姿は見えず、ただ狐の面だけが、ぼうと夜闇に浮きあがる。


「狐面!?……本当に、現れた?」


 驚きに声を上げた陽へと、狐面は語りかける。どこか掠れたような、ざわつく声で。


「…汝、我が問いに応えよ。強者たり得るか」


 陽は完全に気圧されていた―狐面は酷く腕が立つと聞いている。さればこそ未熟な陽は役目から外されもしたのだろう。


 適う相手ではない―けれど、遭ってしまった。


「汝、強者たり得るか」


 問と共に、狐面はずいと進む。それに押され、陽は一歩退いてしまった。


「く……」


 ただの一歩―しかしその一歩に、陽は遅れて自身の怯えを悟った。


 冷や汗が背を伝う―遭ってしまったのだ。

 陽はすらりと太刀を抜き去った。―勝てずとも、粘る間に誰ぞ聞きつけ助けに来れば―。


 狐面は笑う。声は無い。面故、表情もありはしない。しかし確かに、その面が笑ったように陽には見えた。


「答えぬか。さればそれも良し。交えた末に知れる事……。我が望み。叶えて見せよ!」


 声と共に、深い足音が響く―狐面が地を蹴り、陽へと駆け出したのだ。

 迫る狐面―未だその刀は愚か、身体すら見えはしない―。


「く!?」


 迫る狐面へと、陽はあてずっぽうに太刀を振るった。及び腰で腕の力だけ、酷く弱弱しいその一閃は、狐面へと届く前にきん、とはじかれる。

 狐面が防いだのだ、見えない刀を合わせて。


 はじかれた勢いで、陽の手から太刀がすっぽ抜けた―恐れが体から力を奪っていたのだ。


 月光の中離れた太刀はがしゃりと地に落ち、その音ともに陽は座り込んだ。がくりと腰が抜けた―怯えが身体を回る。

 狐面は陽を見下ろしていた―酷くつまらなそうに。

 自分では狐面に勝てない。そんな事はわかっていた。だが、粘る事すら出来ないとは…。


 ゆらり、と狐面がずれる。その身体は見えないが、しかし陽にはわかった。狐面が、太刀を振り下ろそうとしていると。陽を切り捨てようとしていると―


「貴条様……」


 呟く陽の声に力はない。姿なくとも音はあり、ごうと見えぬ太刀は振り下ろされ―。


 そこで、ぽちゃりと水が鳴る。

 不意に、狐面は遠ざかった―飛びのいたのだ。何が起きたか―眩むように見上げた陽の視線の先には、衣を濡らした武芸者の背中があった。


 *


「やれ、刃音聞き戻ってみれば……嫌な顔があったものだ」


 陽を背に、その場に立った雫は、狐面を睨みつけてそう呟く。水は耳―人気ない夜道に一人、暴れた末に酔った者に絡まれでもしたかと舞い戻ってみたのだが、しかして陽に絡んでいたのは指折りの無法者――狐面は雫を睨む。


「妙な面の者。横槍とはな」

「面?……おお、忘れておった。まあ、それはお互い様だろう、狐面よ」

「確かに。……汝強者たり得るか」

「少なくとも、この娘よりはな。そもそも一度切り合ったではないか。誰がその面に傷をつけたと思っている」


 雫はそう言って、少しばかり面をずらし顔を晒す―雫の顔は、狐面も覚えていたらしい。


「……あの時の者か。何故、貴様は永らえる」

「さてな、あるいは、故はそなたと同じやもしれん」


 雫は再び面をつけ、空を見上げた。雲の無い月夜……雪は愚か雨も降ってはいない。これでは狐面の姿も、あるいは足運びをも知ることは出来ない。


「晴れているのう……今日も負けるやもしれん。されど手傷くらいは負わせようぞ」


 その言葉と共に、雫はすらりと太刀を抜き去り、構えた。


「見せてみよ……」


 狐面は応じる―やはり姿は見えない。しかし、緊張は見て取れた―やる気だと。


 しばし、睨み合う―先に動いたのは雫だ。


 狐面とは前に死合った―姿を消す妖刀に、二刀を隠す変異の型―まして足どりすら掴めぬのでは、受けようにも受けようはない。

 故に攻めに出る。

 上段から、狐面へと太刀を振り下ろす―きん、と刃鳴り。雫の鋭い一閃を、狐ははじいたのだ。


 二刀なれば、防ぐも片腕、攻めるも片腕。それは利点であり、だが同時に難点でもある。

 片手で振れば威力は落ちるのだ。攻めであろうと、受けであろうと。


 だからこそ雫は、両手でもって思い切り、重く鋭く、受けの太刀諸共狐面を切り伏せようと考えたのだが―しかし狐面は見事にその一閃を受け流して見せた。


 正面から受け止めるのではなく、流す―口で言う程たやすくは無い。それが出来るだけの腕前―まごう事なき達人の技。前は、手を抜いていたのか…。


「甘い…」


 狐面は呟く―直後、雫のわき腹から激痛が走った。血が溢れる―見えぬ脇差しを突き刺された。一刀で受け、同時にもう一方で攻める―見事な二刀が翻り、雫に深手を負わせたのだ。やはり達人。しかし、遭うは二度目―その動きは雫にもわかっていた。


「されど―――これで一刀は封じた!」


 雫は自身の脇腹、その先の空を握った―例え姿が見えずとも、突き刺さっているのだ。そこには刃があり、そして刃持つ手がある。

 肉薄したこの状態で突き刺したとあれば、刺さっているのは脇差しの方―その間合い、刃渡りは前回見て知っている。


 掌に感触―確かに握った。二刀が内の一方握る、狐面の手首を。

 捕らえた―同時に雫は、空いた片手で太刀を振りかぶる。肉薄した狐面を切り伏せんと。


 しかし―鳴る音は鋼の色。


 狐面は倒れる事なくその場に佇み、そして雫の一閃は宙空で止まった―受け止められたのだ。


「む……防ぐとは。良い手と思ったが、流石、狐面」


 そう呟いた雫の腹を衝撃が襲い、吹き飛ばされる。蹴り飛ばされたのだ―脇腹から脇差しは抜け、血の尾を引いて、闇夜に紛れる。

 せっかく捕らえた狐面だが、その好機を生かしきれなかった。また同じ事をやろうにも、狐面はのってはくれないだろう。

 あるいは雫の返り血で姿が見えるようになるかとも思ったが、それまで含めて狐面は闇に溶けている。


「また、わしの負けか……やれやれ」


 雫はそう呟き、起き上がる。その腹からは鮮血が溢れ、激痛が走っているが―雫は涼し気な顔を保った。


「貴方は……その傷、」

 と、そんな声がする―陽の声だ。どうやら、未だそこに座り込んでいるらしい。雫が相手をしている間に、逃げてくれれば良かったのだが。


「む?逃げておらんのか?困った……まだ続けねば」


 雫は狐面から目を離さぬまま、そう呟いた。雫にはもう、狐面への勝ち筋はない。足取りすら掴めぬのでは無理―だから余裕ぶった後に不意を突き逃げ出すつもりだったのだが、このまま逃げれば陽が切られる。


 狐面は動かない―様子を見ているのだろう。


 雫は、片手でぶんと太刀を振るった。別に誰を狙った訳でも切る気があった訳でも無く、ただの試しである。


「やはり軽いか。うむ。二刀とは器用な。わしには出来んな」


 素ぶった後に、雫は呟いた。両手で振ったよりもやはり遅く、鈍い―先程仕留められなかったのも納得だ。


「さて、困った困った……どうしたものか……うむ」


 狐面は尚も動かない―それを見て取った後に、雫は陽へと尋ねる。


「陽殿。動けぬのか?」

「は、はい……腰が砕けて……」

「そうか。……困ったのう。這う事はできんか?川に落ちるだけで良いのだが……」

「し、しかしそれでは……」


 腰が砕けているのだ、泳いで逃げるもままならない―川へ逃れてもその先は無いと、陽は考えているのだ。


「良いから、言う通りにしてくれんかの?」


 雫が尚もそう言うと、陽も腹を決めたのか頷き、ゆっくりとだが川へと進みだした。


 雫はちらとその様子を眺め、すぐさま狐面へと視線を戻す―だがその一瞬の内に、狐面は迫っていた。

 機を伺っていたのだ―そして雫は隙を見せた。もっとも、雫もわかった上で隙を見せたのだ。


 陽を狙われれば、傷を負った状態では守り切れないだろう―故に、わかりやすい隙を作り、狙いを雫へと向けさせた。


 目を離した分反応が遅れる―正面から、狐面は迫る。見えるのは面だけ、八方どこから切り掛られるかまるでわかりはしない。

 ただ見えぬだけ―けれどそれだけで受ける事は極めて難しくなる。


 雫は狐面を迎え撃ち、太刀を突き出した。狙うは狐面の下―胴があると思わしき個所。


 けれどその突きも、狐面の身を貫く前にはじかれる―見事、逸らされた。逸らされる事は雫にもわかっていた。わかった上で突いたのだ。狐面の選択肢を封じる為に。

 はじかれたのは、狐面のすぐ近く―間合いから鑑みて、恐らく脇差しではじいたのだろう。

 先程、狐面は左手に脇差しを握っていた―つまり、雫から見て右側から迫る攻撃は一歩遅れる。


 狐面の前進が止まる―踏ん張ったのだ。刃を振るう呼び動作―止まった位置から

 して、間合いは脇差しでは遠い。

 やはり、来るのは左、迫るは太刀―そこまではわかる。


 が、わかった所で出来る事はせいぜい、撥ねられぬよう肩を上げ、首をすくめる事くらい――あとは覚悟を決めるのみ。


 鮮血が視界に舞う―遅れた痛みで雫は肩を切られた事を知った。真横から首を狙って裂かれたのだ―すくめねば首が飛んでいた。二刀が軽さに助けられ、左腕は辛うじてまだついている―だが、深く裂かれた為動きそうにない。


 そして二刀故に、追撃までの間は一瞬。


 雫は太刀から手を離し―右腕を自身の顔の前に上げた。それとほぼ同時に、その右腕が見えぬ刃に貫かれ、雫の眼前で血に濡れた刃が止まる。


 脇差しは突きに使う―恐らく好みの問題だろうが、狐面は常にそうしていた。此度もそうするだろうという勘が功を奏したのだ。あるいは、首を撥ねられようが頭を割られようが雫は死なないのかもしれないが―流石に試したこともなく、また試す気にもならない。


 少なくとも、癒えるまで動けなくはなるだろう―それではせっかく出張ったというのに陽を切られてしまう。傷のかいもなく。


 水の音は無い―陽はまだ川に入っていない。


「……しぶとい」


 狐面は呟いた―驚嘆にも似た声で。


「その位しか取り柄がなくてのう!」


 雫はそう笑い、先程のお返しとばかりに狐面へと蹴りを繰り出した。

 しかし寸前で狐面は身を翻し、飛びのく―雫の足は空を蹴るのみ。


 間合いが開いた。肩に食い込んだ太刀は抜けているが、雫の右腕には未だ脇差しが刺さったまま―狐面が手放したのだろう。それが故か、脇差しは目に見えるようになっている。


 完全に雫の負けである―一応首は繋がっているが、しかし既に両腕は使えない。対して、狐面は手傷の一つも負っていないのだ。――それでも、雫は強がった。


「脇差しを手放すか……。一刀では格好もつくまい。返そうか?」

「いらぬ。これはこれで良い……次は身体ごと切り裂いてやろう」


 そう答えた狐面が、低くなった。腰を落としたのだろう―小技を捨て、一刀を全力で振るう為に。そうされては、もはや肩で受けるなど出来はしないだろう。


「太刀を拾え。次で仕舞いよ」


 狐面はそう言った―あるいは脇差しを返すと言った雫への意趣返しか。


「ほう、それはありがたい……」


 そう言った雫は、先程捨てた太刀―妖刀へと手を伸ばした。


 左腕はもう動かない。右腕は以前脇差しが刺さったまま―しびれて握ることも出来ぬ。


 だが、握らぬわけにもいかない―意地で柄を握り、雫は立ち上がる。


 刃を上げる力は無い―刃先は地面をする。次は防ぎ切れぬだろう―そう考えたその時に、ぼちゃんと水が鳴った。陽が遂に川へと辿り着き、飛び込んだのだ。


「面の方!入りました!」


 陽の声に雫は笑い、ふらつく足取りで川へと進んだ。


「漸くか……では、狐面。続きはまたいずれ。次は雨の日が良いの……であればその身切れようぞ」


 そうとだけ言って、雫もまた川の中へと飛び込んだ。


 揺れる水面に赤い血が混じり込み―しかし、待てど暮らせど雫は浮き上がってこない。どころか、いつの間にやら浮いていたはずの陽の姿も失せている。


 どんな手段を使ったか―あるいは妖刀の力か。とにかく雫は逃げたのだ。陽を連れて、狐面の前から。


 しばし川を眺めた末に、狐面は呟いた。


「雨の日……。覚えておくとしよう」


 そしてその言葉を最後に、狐面もまた夜闇に紛れて消え去った。


 *


「ぷはッ……」


 水面へと浮き上がった陽は、そう大きく息を吸った。


 川に飛び込み、犬の面の男に合図を送り……その後に、犬の面も川へ飛び込んで来た。そして、陽は水中に引きこまれ―今こうして再び浮き上がったのだ。


 岸を見上げる―狐面の姿は既に無い。いや、そもそも場所が違っていた。


 先程までいた人気の無い夜道では無く―提灯の明かりに喧騒もある縁日の近く。陽はそんな場所に浮き上がったのだ。


「ここは……なぜ、こんな所まで…」


 流されたか、泳いだか―否。それにしては幾らなんでも離れすぎている。彼方の距離を飛び越えた―。


 と、そこで陽は気付いた。一緒に飛び込んでいたはずの、あの犬の面の姿がないことに。


「あの方は…」


 そう呟いて、陽は周囲を見回す。やはり犬の面の姿は無い―が、代わりとばかりに何かが浮かんでいた。


「これは……櫛?」


 *


 からからと風車が回る―面を斜めにつけ、風車を手に、神那に手を引かれて沙羅は歩んでいた。と、そんな沙羅の足が不意に止まり、神那は振り向いて問いかけた。


「どうしたのです、沙羅」


 沙羅はどこか彼方を見ていた―と、そう思うと沙羅は強引に神那の手を引いて歩みだす。


「…こっち」

「沙羅?ああ、引っ張らずとも……」


 訳がわからぬままに、神那は沙羅に連れられ歩んでいく。


 どうやら、沙羅は縁日から遠ざかっているらしい―やがて周囲に人気は失せて、聞こえるのは川の流れ。そんなほとり、一本の木の前で、沙羅は足を止めた。


 その木には、濡れた誰かが寄りかかっていた。水に、血に濡れた、覚えのある面をつけた誰かが。


 その姿を見た途端、神那は声を上げ、その誰かに駆け寄った。


「雫?……その傷は……雫!」


 そう叫び、顔を見ようと神那は面を外す―するとその先には、血の気のうせた雫の顔があった。


「む……神那様では無いか。縁日は楽しんでおるか?」

「そんな場合ではありません!その傷……手当をせねば、」

「ああ、いらんよ。放っておけば治る。そうだ、これを抜いてくれんかの。力が入らんで困っておった」


 雫はそう言って、右腕を掲げた―そこには確かに、脇差しが刺さっていた。

 神那にも見覚えのある脇差しが。


「これは………狐に遭ったのですか……」

「うむ。いや、あやつ、妖刀を差し引いても強いのう……。ふむ……これを見ただけで狐と知るか。…まあとにかく、抜いてくれんか?」

「しかし、それをすればまた血が……」


 そう言い掛けた神那の脇から、沙羅はさっと顔を出した。そして有無を言わさず、雫の腕から脇差しを引き抜く。どぽりと血が垂れ、それを追い掛けるように雫の腕も落ちた。


「沙羅、何を…」


 問いかける神那を押しのけ、沙羅はまっすぐと雫を見た。


「いたい?」

「む?まあ、の……かなり痛いぞ」


 強がる気力無くそう笑った雫の手を、沙羅は取った。そして空いた手で雫の傷口に触れ、呟いた。


「いたくない。いたくない……」


 すると、呟く沙羅の身が僅かに輝く。その輝きは雫に移り、傷口を覆い―そしてじわりじわりとその傷がいえていった。


「む?……ほう、鬼の術か。ありがたいのう。だが、疲れるであろう?勝手に治るから良いぞ、沙羅」


 雫がそう言うと、沙羅は癒す手を止めぬまま首を傾げた。


「なおる?」

「うむ。わしはほとんど妖怪故な。ま、妖刀に食われたとも言えるがの。とにかく、放っておいて良いのだぞ?」

「平気?」

「うむ、平気だ。ありがとう、沙羅。おう、そうだ。神那様、渡すものが……む。落としたか。ま、仕方がなかろう。ささ、せっかくの縁日。わしはおいて遊んで来ると良い。わしは少々寝るからの……」


 そう呟き、雫は重そうに瞼を閉じた。まるで死人のように安らかに―その様に神那は声を上げる。


「雫!」


 だが、雫は答えず―代わりに緩やかな寝息が聞こえてきた。


 どうやら、本当に眠っただけの様だ。その様に、神那は一つ息を吐く。


「……怪我、勝手に治ってる。なんで?」


 沙羅はそう、神那に問いかけた。すると、神那はぽつりと呟く。


「妖刀の、力です」

「ようとう?」

「はい。使うたび、人の道を逸れていく……そしてやがて人ではなくなる」


 神那は目を伏せた―地には、雫に突き刺さっていた脇差しが置いてある。


「雫。貴方も……いずれ去ってしまうのですか?」


 川のせせらぎ、縁日の喧騒を背に、神那はそう囁いた。

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