幕間 其の三

 幕間 其の三


 牢に入れられてどれほど経ったか―近頃は番の者の姿すらほとんど見られない。


 殿の死が知れ渡り、混乱を来たしているのだろう―牢に放置されて嫌と言う程頭の冷えた今の九織にならば、その程度の予想は出来た。


 殿が死んだのだ―跡継ぎはまだ幼い。戦を目前に―降伏するつもりだったとしても―君主が消えれば混乱も起ころう。


 下手人である九織が未だ生かされているほどには。


 九織は武芸に秀でていた。良くある話と口減らしの憂き目にあい、放浪した先で拾われ、武芸を仕込まれ―才覚を見出だした。


 故にまだ若くも信頼厚い武官となり、戦目前の国境の守護を言いつかり―九織は国を、民を、友人を守ろうとした。


 だがその果てが罪人―若かったのだ。

 あるいは1年にも満たないだろう囚われ―だが代わり映えのない牢に繋がれた九織にはそう振り返り自嘲するだけの十分な時間があった。


 かつん、と足音がする。


「頭は冷えたか」


 牢の外には、家老―才条が立って、やせ細った九織を見下ろしていた。


「…俺に頼る気になったか?」


 九織はそんな事を言った。その言葉は虚栄―もはや、戦どころでは無いと気付いてもいる。


「戦ならすんだぞ」

「そうか」

「講和がなった……この太刀守を飛び越えてな。殿はない……跡継ぎは幼い。武は既にほとんど奪われた。国も、もはやない。この地は、これより乱れよう」

「俺のせいでな」


 その呟きに才条は答えず、別の事を言った。


「九織。お前に役目を与える」

「役目?罰では無く?…死罪だろう。殺せ」

「ならぬ。役目がある。お前が適任よ」

「殺せ!」


 死罰だ。もはや、それが九織に出来る唯一の贖罪―けれど、才条は冷たく九織を見下す。


「役目を全うせよ。それが、お前の贖罪よ」


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