『あるところに』

犬養

『あるところに』

あるところにAという少年とBという少年が仲良く暮らしていました。二人はこの生活がずっと続いていくと疑いもなく思っていました。しかし終わりは突然やってくるのでした。

食糧を探しにでかけていたAが家に帰ると街のこわい人が怯えるBをどこかへ連れていこうとしていました。Aは手に持っていた木の実を投げ捨てBの手をとろうとします。こわい人の家来達に邪魔されながらもAはひたすら「返して!!」と叫びました。こわい人は嫌な笑みを浮かべこう言いました。

「100万用意しろ。そうすればこいつを返してやる」

その日からAは働きに働きました。犯罪に手を染めることも多々ありました。辛い仕事にも歯を食い縛り小さな体に鞭打って必死に働きました。ただBとの生活を取り戻すために。それだけを願い新しくできた手の傷の痛みに耐えながら働きました。

安い給金でしたが着々と箱の底を埋めていきました。そして今日も少年はその箱を大切に抱え冷たい床に体を横たえるのでした。


何年が経ったことでしょう。少年は青年になりました。ぎっしりと重くなった箱を落とさないように皮膚がかたくなった手で抱え、しかし足取りは浮きだったように軽く街中を進んでいきます。

青年はある屋敷の前でぴたりと足を止めました。


「Bを返してもらいに来ました」


そうです。彼は約束を守りにやって来たのです。

彼はすぐに奥の部屋へと案内されました。扉を開けるとシワの増えたよく知っている顔がありました。Bは箱を開いて叫びます。

「約束は守りました!!Bを返してください!!」

こわい人はねっとりとした指使いでよれた札束を数えます。

紙が擦れる音が止まり、こわい人が口を開きました。

「たしかに受け取った。約束通り彼を返そう」

そう言うと家来に何かを指示します。青年はじれったい気持ちを押さえつけて、Bと再会してまず何を話そうか、何を一緒に食べようか、そんな事ばかり考えていました。


待ち望んだ扉を開く音にゆっくり目を向けました。



しかし、そこにBの姿は無く、先程の家来がお盆を手に戻ってきただけでした。大切な人の姿を探す青年の手に家来はお盆に乗せていた袋を握らせます。青年はしびれを切らして尋ねます。「Bは?Bはどこですか?」こわい人は最初に会ったときと同じ嫌な笑みを浮かべて答えます。



「いやだなぁ。返したじゃないの」




手にした袋の口からは何かがぶつかり合う乾いた軽い音とお揃いのペンダントの光が覗いていました。

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『あるところに』 犬養 @ikasaki721

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