春はめぐる・・・
勝利だギューちゃん
第1話
春・・・公園でひとりの男の子を見かけた。
うちの制服を着ているが、見た事がない。
「新入生かな?」
不審に思ったが、私のおせっかいな性格が、ほっておくのを許さなかった。
思い切って、声をかけてみた。
「君、うちの新入生?」
彼は黙ってうなずいた。
「どうしたの?早くしないと、遅刻するよ」
彼は何も答えなかった。
私は彼の隣に腰を下ろし、いろいろと訪ねてみた。
でも、彼は時々相槌をうつだけだった。
しばらくして、ようやく彼が重い口を開いてくれた。
「先輩こそいいんですか?遅刻しますよ」
私はあわてて腕時計を見た。
確かにやばい。
でも、彼をこのままにはしておけなかった。
「僕の事はいいので、行って下さい。
すぐに行きますんで」
「そう・・・じゃあ、また・・・」
私は後ろめたさを感じつつも、学校へと向かった。
彼の事は、みんなには内緒にしておこう。
それが最善と思った。
次の日も、そのまた次の日も、
同じ場所乃同じ時間に、彼はいた。
私のおせっかいな性格が、どうしてもほっておくことが出来なかった。
「ねえ、何か悩みがあるなら、お姉さんに話してみて」
「えっ」
「相談相手にはなれると思うよ」
自然と口が開いた。
「先輩、おせっかいですね」
「自分でも、思うよ」
気のせいか、彼が少しだけ微笑んでくれたように感じた。
「ねえ、学校には行ってるの?」
「行ってなかったら、退学になってますよ、高校なんですから」
「そうだよね」
私は、少しばかり安心した。
いつしか、この時間に彼と話すのが習慣になっていた。
彼がどんな生活をしているのかは知らない。
でも、彼との時間を楽しんでいる自分がそこにいた。
恋とは違う。
でも、強いて言うなら母性本能が、彼をほっておけなかった。
「そういや、まだ名前言ってなかったね。私は雛乃彩(ひなのさや)。18歳。君は?」
「僕の名は・・・」
その名前を聞いた瞬間、私は彼をギュッと抱きしめていた。
彼は、私の中で緊張の糸が切れたように、大声で泣いていた。
私も気がつかなかった自分に対して、大声で泣いた。
彼は私の・・・
ごめん。想像に任せる。
私の口からは、とても今は言えない・・・
春はめぐる・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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