第15話
私は助手と別れた辺りまでやってきた。
時刻はもうすぐ20時に迫ろうとしている。とっくに日は落ちていたが周りの家や街灯がもたらす光によってこの辺りはすれ違う人の顔が普通に見えるくらいには明るい。
と言っても人通りはあまり無い。この時間にあまり出歩くことがあまりなかったので知らなかった。
それでも街中で大した危険なんてなさそうだ、私の杞憂だったみたいと少しホッとする。
それでも助手が戻ってないということは単なる迷子だろうか、猫を探して遠くに行き過ぎて帰り道が分からなくなったとか。
何でも完璧にこなすように見えて意外な事が出来なかったりするような少し抜けているところもある。
「迷子を探している本人が迷子なんて・・・」
呆れたように言葉を漏らした。
探す方法は猫と変わらない、歩いて探す。
人に聞こうかとも思ったけど出来なかった。朝は助手がいたから他人でも声をかける事が出来たけど今は一人、心細さもあってか話しかける勇気が出ない。
一時間程探し回って人通りもほとんどなくなり始めたところでさすがに不安を覚えるようになってきた私は一旦事務所の方に戻ってみようと考え踵を返す。助手がもう戻っている可能性も考えられる。
そうやって来た道を引き返していた私の目に留まったのは路地裏への道。
気付いてはいたけど通り過ぎていた場所。
もしかして、と嫌な予感が頭に浮かぶ。
助手はここに連れ込まれてるんじゃないだろうか。
よくよく考えれば人前で堂々と悪さをする人間なんてそうそういない、危険に巻き込まれているとしたらこんな場所が考えられる。
ゴクリと生唾を飲む。
路地裏への入り口はこことは違う暗さがある。
闇が人を拒む結界のように働いてその境から先に足を入れることを躊躇ってしまう。
街の一部として存在しているが昼間ですら物騒な印象を受けるこの場所は夜に改めて見てみると数倍にも増して物騒に思えた。
やっぱり駄目だこんな所迂闊に入る所じゃない。
私はそのまま通り過ぎようとしたその時、後ろから突然声をかけられた。
「あの、すいません。もしかして人を探してるんじゃないですか?」
その言葉に慌てて振り返って見てみると立っていたのは女の子。
背丈は私とあまり変わらない、目元まで覆う長い前髪のせいで顔はしっかり見えないけど今はそんなことはどうでもいい。
「何でそれを?」
「あっ! そうですよね、突然すいません。さっき周りを見回しながら歩いて行くあなたの姿を見てもしかしたらそうじゃないかなって・・・」
「何か知ってるの!?」
「あっ、でもあなたが探してる人かわからないんですけど金髪であなたと同じ歳くらいの女の子があそこに入って行くのを見て・・・」
そう言ってその子が指差したのはさっき私が通り過ぎようとした路地裏。
特徴的には助手に近い、でもそれだけじゃまだ断定はできない。
どうするか考ている時思い出したようにその子が言った。
「それとその子の目が特徴的で緋色の眼をしてたんです。だから珍しいなと思ってついつい気になって・・」
間違いない、助手だ。
「それっていつぐらいの話!?」
「ついさっきです、今から行けば追いつけるかもしれませんよ」
「ありがとう!」
私はその子に感謝を告げてすぐそこに足を踏み入れた。
すぐそこにいる、ようやく見つけたという安心が私の警戒心を緩めていた。
纏わり付くような暗闇を掻い潜り狭い一本道を進んでいく。
放置されたゴミが目に映るたび不快感が募る。
視界も悪く、ゴミも散乱しているため走るのはさすがに危険なのでゆっくりと歩を進める。
自分の息遣いが聞こえる、いつもより早い。
一歩一歩進むたび胸が早鐘を打つ。
数個めの曲がり角に差し掛かった頃、聞こえて来たのは人の声。
男女混じった数人ほどの話し声と笑い声、その声質から分かるのは若者だということ。
しきりに奇声に近い音を発して随分と興奮しているように聞こえる。
恐る恐る角からほんの少しだけ顔を出して様子を伺うと若者5、6人がたむろしているのが窺える。
その場にある光源が頼りなく正確には分からないが全員同じ年頃だろう。
ただ集まって遊んでいるだけ、助手の姿も確認出来ない。
まだ先はあるがさすがにあそこを通るのは抵抗がある。おそらくあの先は大通りに繋がっているからあまり関わりたくもなかったのでここで引き返して建物の外周を回り込むことにした。
物音立てずにその場を離れて行くが私は自分の運の悪さを想定してなかった。
引き返している最中に路地裏にやって来たであろう男とばったり鉢合わせしてしまった。
「誰だお前?」
屈強な体つきの男の威圧するかのような声が私を襲う。
頭の中は焦りで満たされて口も身体も麻痺したように動かない。
黙って硬直しているだけの私を置いて口を開く。
「お前見てたのか?」
見た? 何を言って・・・。
男が私の腕をがっちりと掴み強引に引っ張って行く。
そこでようやく身体の硬直が解けて手を振り払おうと必死でもがくも屈強な男の手は離れる兆しを見せない。
「やめて! 何も見てない、離し––––!!」
「うるせぇ黙ってろ」
そこで口を塞がれ唯一の抵抗手段を失った。
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