迷いと決意

「これはやばい・・・」


そうダールは呟く・・・・先程まで死闘を繰り広げ、何とか勝利をもぎ取ったのだが、そこに、安堵の顔が無かった・・・・


「急いで、ルジャの元に移動するぞ!!ジュル!!」


「待って!!後、数秒!!」


戦闘が終わった後、魔力を練り上げていたジュルがそう言う・・・今まで、ずっとルジャの元に移動する為、瞬間移動を可能にする為の魔力をずっと練り上げていた・・・本来、膨大な距離の移動の為かなりの魔力を使う為、休ませてから使わせてあげてあげたかったが、ルジャの状態が気になり強攻の思いでジュルに魔法を行使させている・・・それにしても何故・・・ここに向こう側の神が!!


「出来た!!」


その瞬間・・・我達は移動した・・・転移出来たその事に安堵する事も出来なかった・・・なぜなら、目の前には強力な光を纏った、魔力の塊が迫って来ていたのだから・・・・そして、気づく、敵側の神がそこにいる事を・・・魔力の塊が神の力で膨大な力まで膨れ上がっている事を・・・


『神の力を!!』


その言葉の方向にルザーが居る事に気付く・・・我はハッとし、自らの力をルザーに神の力を与える・・そして、またしても気付く、今の声がルザーの声でないことを・・・神同士の通信で使う神通力であることを・・・この感じ、ロイドか・・・?


(何故、ロイドが・・・予定では我達の力で完璧な形で魔界に来るのでは・・・?)


そんな疑問も余所に、彼は闘気を剣に纏い、魔力の塊を切りつける・・・しかし、神の力が付与された魔力の塊・・・いくらロイドが憑依していようと・・・ルザーの身体では・・・だが、次の瞬間目に飛び込んだのは創造していた結果では無かった


(・・・何だこの威力は・・・?!)


本来、ルザーに与えられる、神の力は制限が掛けられている、それはロイドが憑依している今も変わらない、それなのに、今彼は神の力で巨大化した魔力の塊と拮抗している・・・そして・・・魔力の塊はこちらに向かう勢いを無くし・・・消滅した・・・


(何だと!!?)


それは本来、あり得ない光景であった・・・人間の身体を用いて神の力を破る等・・・あり得ないはずだった・・・だが、目の前の光景は自らの常識を覆していた・・・


『神卸の準備を!!』


その言葉に気が付く・・・そうだ!!急いで、ルジャに神卸をさせなければ・・・


「ルジャ!!神卸を!!」


必死になって紡いだ言葉は・・・


「・・・嫌だ・・・」


ルジャの言葉で否定されてしまった・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――


私は何もできなかった・・・魔物が出てきてから、何も・・・・・


勇者になって・・・一度は折れかかった心が神の励ましによって、立ち上がったが、内心ビクビクしていた・・・本当に自分が出来るのか・・・そんな思いが渦巻いていた・・・だけど、いつまでも悩んでいるわけにはいかない・・そう思って・・・意を決して外に出たのに・・・それを・・・ダールは・・・あいつは・・・


----------------------------------


「フハハハハハ!!貴様が勇者か!!我は最強の遊び人!!ダールだ!!!」


初めて会ったとき、なんだこいつはと思った・・・男でありながら、露出が高い引く・・・ヒラヒラの衣服・・・・それは決して、男性が着ていいものではなかった・・・その前にこいつなんて言った?遊び人!!?世界を命運をかけた旅に遊び人!!?


「・・・・その服は・・・・?」


「フハハハハハ!!勇者を応援する為に着てきた特注のユニフォームだ!!!」


「応援?・・・その服に特殊な効果があるとか・・・・?」


「フハハ!!ある訳がなかろう!!!」


「ルザー!チェンジで!!」


何だ!!この舐めた人物は!!


「ルジャ・・・気持ちはわかるが・・・どうしても一緒に行かなくてはいけないんだ・・・・」


ルザーがそういう・・・いや何で!!もっといい人材他にもいたでしょうが!!


「フハハハ!!心が狭いと何もかも上手くいかないぞ!!」


何なんだ・・・こいつは・・こっちは決死の思いで・・・旅に出ようとしているのに・・・こいつは・・・こいつは!!!・・・その時、僕の中の何かが切れた・・・


「・・・・・・・・・ぶん殴ってやる!!!」


-----------------------------------


結果・・・私はダールを殴ることができなかった・・・途中から我を忘れて剣も使ったが、一度も当たらなかった・・・そう言えば、それからだっけ、何か理不尽があると、ダールに食って掛かるようになったのは・・・


ダールがどこまで考えて行動していたか私にはわからない・・・・だが、ダールのおかげで、勇者という肩書という名の重み・・・それを忘れることが出来ていた・・・だから、私は剣を振り回しながら・・・怒りながらも、ダールの事は感謝していたと思う・・・


ダールとジュルが、私の神卸を成功させる為に犠牲になると聞いた時、信じられなかった・・・・だけど、ジュルが相当の覚悟を持っていることを知り・・・私自身・・・ルザーとルウェールを救いたい一心で、立ち直った・・・そう思っていた・・・


ダールが神卸について話をした次の日、魔界に行くと言った時、私は驚いた・・・だが、いつもの調子で話をするダールを見て私は・・・神卸でダール達が犠牲になる事を忘れることが出来た・・・


だからなのだろう・・・神卸の本番の時が来た今・・・二の足を踏んでいるのは・・・


さっきまでは、何とかしたいという思いで、魔界と神の世界を自身の力だけで、神の意識を降ろすことが出来たが・・・今度はそうはいかない、神自身を降ろす・・・・そうでなければ、魔王を倒せられないと、出発の前に言われていた・・・


今までは私自身に神を降ろし、神の力を行使してきた・・・だが、それでも、神の力を全てを引き出すことは出来ておらず・・・今回の魔王は、神の力と同等の力を持っていると聞いている・・・神卸をしなけらば、勝てない・・・・それどころか、今目の前にいる敵はどうみても、神自身であった・・・おそらく、聞いていた、敵側の神であるのだろう・・・そんなのが、目の前にいる・・・・


だからこそ、絶対に今ここで神卸をしなければいけない・・・・


頭では解っている・・・だが、魔界に来て、離れ離れになっていたのが、ついさっき一緒になれたのだ・・・それなのに、会って一言目が・・・神卸をしろ・・・だ・・・そんなの・・・嫌だ・・・


「ルジャ!!」


ダールが叫ぶ・・・いつもの様な余裕を持っていない・・・解っているのだろう・・・このままでは、全滅してしまうことを・・・だけど・・・僕は・・・・


「・・・・・お前・・・何もかも、犠牲にしてでも、目の前の人々を救いたいと言ったあの言葉は嘘だったのか・・・・?」


「・・・何を言って・・・・」


「・・・死んでいく人、傷ついていく人・・・そんな人達を救いたいかったから、もう一度巫女としての力を取り戻したんじゃないのか・・・?」


言われて気づく・・・そうだ・・・私は一度神卸の巫女としての力を神に返した・・・・だが、その事により民衆から反乱がおきた・・・皆が傷つき・・・死んでいく中で・・・私はもう一度神卸の巫女として生きる事を決めたのだ・・・・だから・・・私はその時から、絶対に逃げないと決めたのだ・・・


そして気づく・・・あの時を知っている神・・・その事を話した神様


「もしかして、ダー・・・?」


懐かしい名前を呼ぶ・・・その名は、私が記憶を持てるようになり、初めて認識した神、いつも可笑しなことをして笑わせ、いつも私を笑顔にしていた神様・・・・


ダーと言う名前は私がその神に付けたあだ名だった・・・


「・・・・・・・・・・・ルジャ・・・ここに居る魔族達、恐らくお前らが守っていた者達なのだろう・・・その者達も死ぬのだぞ・・・・頼む・・・やってくれ!!」


ダールがそう言って、頭を下げて来た・・・言われて気づく・・・ここには傷だらけの魔族達が沢山いるのだと・・・


ドォォオオン!!


近くから轟音が聞こえる・・・このままでは、皆死んでしまう・・・でも・・・・


「ルジャ!!」


その時、こちらに来たダールの顔を初めてまともに見た・・・その顔は今まで見たことも無い、必死の顔だった・・・・・あの日の様な辛い顔をしながら・・・・・


私は無言で踊りの舞の準備をする・・・


「・・・ありがとう・・・」


その言葉に反応しない様に私は踊り始めた・・・・・


「そして、ごめんな・・・・最後まで笑わせられなくて・・・・・」


その言葉に・・・私は涙が零れてしまった・・・神卸の儀、失敗をしてはいけない・・・だからこそ、平常心で挑まなくてはいけないのに、涙が後から後から・・・湧いてきた・・・・


いつもそうだ・・・この神は・・・私を第一に考えてくれていた・・・・・私が神卸の巫女を辞めたいと言った時も、その言葉の通り、巫女を辞めさせてくれた・・・私が神卸の巫女をもう一度やると言った時も、すぐに神卸の巫女としての力を返してくれた・・・


旅に出た時だって・・・私を笑わせる為に・・・


私は泣きながらも舞を踊り続ける・・・ダール・・・ダーの決心を無駄にしない為にも・・・そして何より・・・ここに居る皆を守る為に・・・ダーとジュルの周りの光が大きくなっていく・・・・・・・その光はさらに大きくなり、辺りを包み込むそして・・・・


――――――――――――――――――――――――――――――――


『すまぬな・・・ルウェール・・・お主には迷惑をかけた・・・』


今にも消えそうな身体で、ジュル様はそう言う・・・ナールも近くにいたが、気を使ってもらって2人にさせてもらった・・・


「いいえ・・・ここまでの旅、私達の方が助けられたのが多かったです・・・」


ジュル様がいなければ、航海でこの魔界に来る事すら出来なかっただろう・・・それ以外にも、魔族の襲撃の感知・・・魔法によるサポート・・・挙げれば切りがない・・・・


『後、すまぬな・・・・お主のルザーへの告白の時間取れなくてな・・・』


「なっああ・・・」


そう言われて、私は顔を真っ赤にする・・・そんな事、今言わなくてもいいだろうに・・・


『フハハハ・・・最後のアドバイスだ、後悔しないように行動しろ・・・例え失敗しても、後悔をしない選択をしろ・・・・』


そう言って彼女はダールの事を見た・・・その顔は少し赤みを帯びている・・・


「・・・すみません、最後に聞いてもいいですか・・・?どうして、ダール・・・様を好きになったのですか・・・?」


そう、ずっと気になっていた・・・何故性格が真逆のダールにジュル様が惹かれたのかを・・・


『・・・・気づいたら、好きになっていた・・・それ以上の言葉は無い!!』


そう言って。ジュル様は走り出して、ダール様に抱き着いた・・・その笑顔は今まで見たことが無い程の笑顔で・・・そして、そのまま、ジュル様とダール様は光の中に消えていった・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る