第二話 月面の病院にて

 二人は新生児の集中治療室にいた。正宗明継と妻の美沙希である。

 無菌室の中に新生児がいる。彼らの娘、真由まゆだった。


「今しばらくは大丈夫です。容体は安定しています」

「でも、このままだと……」

「一年は難しいでしょう。恐らく数か月かと」

「そんな。お腹の中にこの子がいたのに……私が宇宙を飛び回っていたからなの?」


 明継の胸で泣き崩れる美沙希だった。

「君のせいじゃない。君のせいじゃないんだ」

 美沙希を抱きしめる明継。彼の目にも涙が浮かんでいた。

 彼らの愛娘、真由は原因不明の宇宙病にかかっていた。俗に言う宇宙放射線病なのだが、原因まだ解明されていない。


「きっと彼女達が何とかしてくれる。ビューティーファイブが」

「奥さんそれに期待しましょう」


 明継と医師の言葉に頷く美沙希だった。


 ビューティーファイブは今、土星の衛星エンケラドゥスへ向かっている。衛星表面の氷の下には海が存在しており、生命が生息していることが確認されている。そこにいる希少な生物の中に特殊な二枚貝がいる。

 エンケラドゥス・アコヤと呼ばれている種だ。その貝が作る真珠は青く透明な結晶で特殊な波動を持っている。エンケラドゥス・サファイアと呼ばれるその結晶が持つ特殊な波動が、難病である宇宙放射線病に対する唯一の治療方法だという。


 めったに見つからないエンケラドゥス・アコヤ。しかも、そのエンケラドゥス・アコヤが見つかったとしても、中にサファイアが入っているとは限らない。


 発見の確率は絶望的。

 しかし、奇跡を信じてビューティーファイブは土星へと旅立ったのだ。

 元リーダーの美沙希の為に。

 彼女の娘、真由の為に。

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