第8話 言の葉と災厄と式典と

第1節 二十年ぶりの式典

今年の大晦日には特別な催しがある。

そんな話を七賢人の一人、『英知の魔女』こと祈さんが持ってきたのは、年も明ける直前。

十二月三十日のことだった。


「魔法式典?」

「そ、二十年に一度の魔法式典が今年開催されるの。魔女や魔法使いはもちろん、魔法学者や魔法に関わる企業なんかが参加してね。新しい技術を公表したり、魔法式の発表なんかもあるのよ。いわば、魔法の大祭ね」

「はぇー、そんなすんごい式典があるんすねぇ」


私がお茶をテーブルに置くと、お師匠様は静かにカップを口に運んだ。


「前行われたのはお前が生まれる前だからね、知らないのも無理はないだろう」

「色んな魔法の研究成果が発表されたり、新事実が明らかになったりする。間違いなく魔法の開発、知識の最先端よ。世界でトップクラスの魔女や魔法使いだけが、そこに招待される。当然、七賢人もね」

「そんな式典に私がお呼ばれしても良いんですか?」

「『永年の魔女』の弟子なら、参加資格は十分あるでしょ」


祈さんの言葉に、お師匠様も静かにうなずいた。


「私は魔法式典の実行委員を担っていてね。会場全体の取り仕切りや、要人警護と、なにかと忙しいんだ」

「それで、手の開いてる私にあんたを連れてけってファウスト婆さんが。まったく、人使いが荒いんだから」

「その分泊めてやるんだ。おあいこさね」

「へぇ、何だか楽しみだなぁ」


目を輝かせる私の顔を、カーバンクルが不思議そうに覗き込んでくる。

その頭を撫でながら、私は何気なくテレビに目を向けた。ちょうどタイムリーなことに、七賢人の特集をしている。

『言の葉の魔女』ことクロエの特集だ。


言の葉の魔女クロエと言えば、その妖艶な見た目とスタイルで注目されている魔女の一人である。抱きたい魔女No.1とも言われ、おっとりとした、母性溢れる見た目のおかげで、男性からの人気が厚い。

たまにテレビで登場することもあるから、私もその顔はよく知っていた。


テレビの露出が多いのは断トツで『祝福の魔女』ことソフィ。

次点が何かと大きなイベントを仕切る『永年の魔女』ことお師匠様。

その次に有名なのが、この『言の葉の魔女』ことクロエだ。


祈さんは研究者だからほとんど前面に出ることはないし、他の三人に至ってはテレビに名前が出ることはあまりない。

露出が多い組と、露出が少ない組、そして中間。

そんな形で別れているのが、私の七賢人に対する印象。


私がテレビを眺めていると「クロエは今回来るかもね」といつの間にか私の隣に立っていた祈さんが言う。


「この美人を生で見れんのかぁ」

「美人? クロエが?」

「ええ。めっちゃ注目集めてるでしょ。まぁ、私には負けますが」

「あんたのその根拠のない自信どこからくるのよ」

「私はただ事実を述べているだけなのですよ」


私が言うも、なんだか祈さんはニヤニヤした表情を浮かべ続けている。


「そっかぁ、クロエが美人ねぇ、ふぅん」

「私の次に、ですけどね」


この時の私は、その祈さんの表情の意味がまだわからずにいた。

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