第一章:獣の少女

―― 95 ――

 そろそろ夕暮れをむかえようかという頃。

 となり町の広い空き地は、あたりが暗くなるに連れて喧騒をたたえはじめていた。

 蒸気オルガンの音楽、風船から空気が抜けて飛んでいく音、学生特有の甲高い笑い声、観覧車やメリーゴーランドなどといったアトラクションの稼動音……と、人の入りが増えるほど、ざわめきと温度も増してゆく。

 今日は年に一度の、移動式遊園地が訪れるカーニバルの日だった。来場者は周辺地域に住んでいる人がほとんどを占めていたが、ふたつほど離れた町からやってくる家族連れも少なくはなかった。

 当然のことながらすべての人が同様に盛り上がっているわけではない。中学生や高校生がはっちゃけている裏では、何人もの市警が不穏な空気をただよわせていた。

「今日は帰るのが遅くなりそうだ……」

 どこかで若者の警官がため息を吐いた。

「いいか、不審な言動をしているやつには要注意だ」

「了解です」

 上司に緊張感をあおられ、若者の警官は胸を張る。

「……と、言ってたそばからあやしい人物発見です」

「どこだ」

「あいつです、ほら――」

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