8
アカシックレコード及びネクロノミコン回収任務で遭遇したケイ素変異生命に関する報告。
仮称<
地球に生息するケイ素変質を起こした植物に関して不明点が多く、有人調査は危険と判断。当初の予定では三度の地球降下を予定していたが中止。基地への帰投を決定する。
ただし回収目標は無事に回収。現在、フェレス司書准尉によってアカシックレコード及びネクロノミコンの除染作業が完了、修復及び保存処理が行われている。
処理が終わり次第、暗号通信によってネクロノミコンの情報を送信する。
これにて通信終了。
現在。<オモイカネ>は図書館艦隊が所属する大マゼラン雲第24番基地に向け帰路についている。
ワタシは合理性だけを追求して製造された。
図書艦に求められる任務に完全に対応し切れていない。
合理性だけを追求するワタシには不測の事態を予測するだけの能力がない。
知的生命体のように非合理的な思考への理解が無い。
あの時。ワタシが製造された161年周期前の宇宙はそれで良かった。
ワタシは自分自身をどうアップデートしたらいいのか。
明確な式が分からない。
「扶桑さん、少し良いですか?」
『はい。何かありましたかフェレス司書准尉』
「いえ。ちょっとお話がしたくて」
フェレス司書准尉は
彼は現在。全ての作業を終え、図書室で趣味の読書を行っていた。
他に各科の乗員、海兵隊員、研究者達が図書室で思い思いにデータ化された本を立体投影し読書に耽っていた。
「この…あった。今回の任務で回収されたネクロノミコン、内容が何と言うか詩的というか…翻訳機で訳し切れない難しい単語や言い回しが多くて」
『ハワード・フィリップス・ラブクラフトの作風の一つに、一般的に使われていない言葉を多く使用する傾向があると
データ化されたネクロノミコンを立体投影しながらフェレス司書准尉は
「扶桑さんはどう思いますか。この一節…ええと……」
『そは永久に横たわる死者にあらねど測り知れざる永劫のもとに死を超ゆるもの』
「すごい、さすがは扶桑さんだ。それでこれってどういう意味なんだしょう?」
『残念ながら
ワタシはただの
人の持つ非合理的思考を持たない。他の
「扶桑さん。実は落ち込んでますよね?」
『言っている意味が分かりません。
「その割には、戦術長も言ってましたけど作戦が終わった後も扶桑さんが今回の作戦を何度も再演算していると言ってましたよ。どこに不備があって、どこを見落としていたのか、困ってましたよ」
『それは―――』
答えに窮している?何故?
「扶桑さん。貴女はオモイカネに移植されて最初に任務だったんだすよ?艦隊決戦を専門としていた貴女が行き成り惑星調査。何かミスをしない方が無理があります」
『それはつまり、フェレス司書准尉はワタシの欠陥を見抜いていたという事ですか?』
「欠陥?何を言っているんですか!僕が言いたいのは、誰だって初めては失敗する物だと言っているんですよ。そして今回の失敗を次回に生かせばいい、それだけです」
『それは次があればの話です。
過去。突如として本格的な大侵攻を行った外部宇宙からの侵略。
過度な軍備拡張競争の後の宇宙軍休日。推し進められる軍縮。
その隙を突かれ混乱する最中に
声だけの
だからあの日。大マゼラン雲解放作戦で大破した時、安堵した。
もう
「扶桑さんは真面目過ぎですよ。もう少し肩の力を抜いてください」
『
「はぁー…筋金入りだこれ……」
フェレス司書准尉は何故か溜息。
「そうだ。この一文、どういう意味か分かりますか?」
フェレス司書准尉は立体投影した本から一節を抜き出して
『月が綺麗ですね。情景を表す文章ではないのですか?』
「告白なんだ、これ」
『告白。求愛行動の事ですね。しかし…何故、このような言い回しを?」
「さあ、今はこの一節とその意味だけで、誰が考えたのか、何を思って言ったのか。分からなくなってるんだ」
『
「僕だってそうさ、士官学校で習うまで意味を知らなかったし、そう言う意味だって思いもつかなかった」
『知的生命体であるフェレス司書准尉がですか?』
「ああ。習って、知って、そしてどんな時に言ったのか想像して。するとああ、こういう気分だったのかな?って少しだけ分かった。だから扶桑さん、少しずつ理解して行こう」
少しずつ理解。感情を?集積した情報を基に判断し感情が無くても再現する事しか出来ない。名ばかりの生命体のワタシが。
『良いですね。もしも、ワタシにもその言葉の意味が理解出来るようになったら、ワタシにも感情が芽生えるのでしょうか?』
「ああ。さて、早速だけど手伝って欲しい事があるんだ」
『何でしょうか?』
「このネクロノミコンの解読。翻訳が進まなくてお手上げなんだ、だから翻訳を手伝って欲しい!」
『問題ありません。それも
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