孤独な雛鳥

 孤独な雛鳥。巣から羽ばたくことも出来ずに今日も独りで哭いている。


 ああお腹空いたよ寂しいよ、寒いよ怖いよ助けてよ。


 高い木の上、助けを求めることすら出来ずただただ虚しく哭いていた。溝鼠の曇天。天が涙を流しそうだ。負の感情は連鎖する。螺旋階段のようにただただグルグルと負の感情が次なる負の感情を巻き起こす。木々の騒めきは雛鳥の喚声をいとも容易く消し去った。


 ああ嵐が来るぞ、さっさと逃げろ、この森はもうおしまいだ。ああ怖い、はやく逃げろ。


 森の動物達が明後日の方向に逃げてゆく。雲の流れを読んだのか、空気の流れを読んだのか。飛び方すら知らぬ雛鳥には分かったものではない。もうじき嵐がやって来る。森の中は阿鼻叫喚地獄絵図。すると突然ヒョイと飛び出した一羽がいた。


 皆さんそちらは嵐が来る方角ですよ、逃げ道はコチラ、ついてこれなきゃ知りません。


 雲雀が鳴いた。その声に耳を傾ける者など居ないに等しい。雑踏の中、そんな小さな声では誰にも伝わることは無いのだろう。薄暗い森の中、そんな雲雀に烏が喧しく騒ぎ立てる。


 他人の話を聞けないヤツなんざ死んじまえばいいんだ。空気を読めない鳥は明日死ぬ。毎日そうやって生きてきた俺たちの声を聞けないヤツは等しく死んじまえばいいんだよ。


 ぶっきらぼうに言い放った声に少しだけ足を止めた者。然し狂い咲いた花が萎むことはない。喧騒は増すばかり。そんな中、飛べぬ雛鳥はただただ虚しく哭いていた。


 みんなそこで何しているの、ああ寂しいよ構ってよ。ここから何処かに連れてって。


 間も無く夜には嵐がやって来た。大粒の涙を呼んで森はそれに掻き混ぜられる。吹き荒ぶ暴風が怨嗟を浚って浄化してゆく。汚染された森の空気は一夜の大荒れと共に何処かに消え去ったのだ。

 次の日雛鳥はまたも啼いていた。昨夜の嗚咽によって住んでいた巣は壊された。自由になった雛鳥。然しその先の道は大荒れだ。崩れ去った獣道、飛び方を知らぬ雛鳥が一匹。その大荒れの道を照らす太陽だけが未来の希望となるのであろう。


 孤独だった雛鳥が一匹。歌うのは、希望の歌だった。

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