霙
霜月も下旬。赤と緑の装飾が目に留まるようになってきた。店先の鮮やかな色彩に相反するかのように、通りの街路樹は随分と寒そうな外見になってしまっていた。
冬枯れの景色というのはどうにもさむしくっていけない。枯れゆく木々の叫びに耳を傾けていれば、自ずと己の魂の朽ちていく音に気付いてしまうのだ。聴きたくなくとも聴こえてくる、歯車が擦れて軋む音。なんて耳障りなのだろうか。『不愉快』という文字列が脳裏に浮かんで離れてくれなかった。
あれから何れくらいの月日が過ぎ去ったのだろう。何もせずに過ごしてしまった罪悪感。その波が襲ってくる。いや、何もしなかったのではなく、何も出来なかった。最愛の人を目の前で失ったのも丁度この時期だっただろうか、そう思考を遊ばせる。紺色のマフラーに顔を埋めて、刺すような冬の風から逃がれようとした。
――ああ、これを渡してくれたのも彼の人だったか。思い出のマフラー。失くしてからその愛しさに気付くなんて。本当にどうしようもない人間だ。
冬は感傷に浸ってしまって善くない。年老いた人間が未来を望むというのも少し違う気はするが。だからといって絶望に打ち拉がれることも身を滅ぼすだけであろう。ショーウインドウに映る自分の、年々増え続ける皺と白髪。目に見えて分かる『老い』というものに虚しさを覚えつつ、私は独り哀しく帰路に就くのであった。
足下は霙。朽ちゆく先は見えなかった。
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