落し物
何かを落とした筈なんだ。それが何かは分からないけど。君は知ってるか……って知ってる訳がない。知っていたら、君が盗んだのかと疑わなくちゃならない。疑いの目は向けたくないんだ。
さて、何を落としたのか分からなければ、落とした場所も分からない。そうだろう? 何で君が泣きそうなんだよ。まだ落としたかどうかも分からない。諦めるには早すぎないかい? 僕はまだ諦めちゃいないさ。
僕が前とは何か変わったかい? 変わってないならそんなに大事じゃないんだろう。ええ、そんなに変わったのかい、なんてこった。それは一大事。
何を落としたのだろう、僕の欠片は何処だ。大切なネジをひとつ、ふたつと失くした感覚。手を伸ばして届く限り足掻く。見えない落し物を探す為に。
見えない、視えない、光が見えない。ずっと、ずっと、探しているのに。
胸騒ぎを覚えて独り来た道を振り返ったならば、キラキラとした星屑の欠片が落ちていた。少しずつ落としてきたのだろう。拾い集めるには大変だろうな。量が多いや。これはきっと誰かの落し物、自分のじゃない。そう言い聞かせていないと壊れてしまいそうだった。
夜空の様な濃紺の道を歩けば歩くほど振り返ったときに光る何かが増えてゆく。僕のじゃない。いやそうでもないか? そうだ君なら分かるだろう。
キラキラの囁く声に耳を傾けてみたならば、そこから聴こえてくるのは僕の声。声にならぬ叫びたちが星屑となって散らばっていた。まさか僕は歩くだけでここまで磨り減っていたというのか。
信じがたい、いや信じたくない。僕の意識は夜闇に溶けた。
大丈夫、いやだいじょばない。必要の無い嘘はいらないのになんで。助けて、助けないで、ああやっぱり助けてくれ。混沌の沼に沈んだ僕を引き摺り上げてくれよ。大丈夫、君になら出来る筈。君しかいないんだお願いだ――。
ありがとう。僕は集めにいくよ、星の欠片を。僕のカケラを集めにいくよ。手伝いは必要ないさ。自分で拾わなきゃ意味はない。心配しないで、最後はちゃんと君の元へと帰るから。それじゃまたね、いってきます。
自己愛という名の箒と自尊心という名のちりとりで星の欠片を集め始めた。中々集まらないなぁ。もう諦めてしまおうか、いやこれは僕のカケラ。集めるしかないんだからさ、もう少し頑張ってみようぜ。
――何時間経ったのか分からない。もしかしたら何年も経ったのかも。ようやく集まった星の欠片を一まとまりにする。その瞬間まばゆい光が弾ける。
ああそうか、これは僕の夢だった。僕が大切にしていた夢だった。幼い頃の希望だった。
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