殺シ愛
「君の事を愛しているのよ」
其が僕を締め付ける。殺そうという悪意を持って、僕の思考に切りかかる。言葉のナイフが飛んでくる。紅い何かが滴った。
あ、僕の大事なものが切られたんだ。僕の身体から紅い何かが噴き出している。此れは何だ。紅くて生暖かい。気持ちが悪い、グラグラする。
「君の為を思って言っているの」
此れは痛い。痛い痛い痛い。頼むから僕を刺さないでくれ。何かが刺さって抜けないんだ。棘が喉に刺さって抜けないんだ。呼吸が苦しい。喉に血が溜まって上手く酸素が吸えないんだ。
「君の夢はただの夢だ」
お前に何が解る。僕の夢は僕の夢。やってから考えれば良いだろう。ふざけんな。なんで否定しかしないんだ。僕が欲しいのは肯定の言葉。左腕は切り取られた。だから僕は正当防衛、
「貴方に夢はあったんですか」
そういうと僕を否定する大人は怯む。そして僕を人間として見なくなるんだ。何だその目は恐ろしいのか。僕だって人間だ。人間じゃないというのならお前らの方だろう。右足は穴が穿たれプシャアと紅が噴き出した。
「そういう貴方はやりたいことをやれてるんですか」
なあ、なんでお前が泣いてんだよ、泣きたいのは此方だ。泣けば良いとでも思ってるんだろ、僕にはそれは通用しない。僕にだって血は通っている。僕の身体は真っ紅だけれど。何故かって、お前らが勝手に刺したからだろう。此れは僕の正当防衛。お前らが傷付こうが僕は痛くない。痛いのはお前らの言葉だろう。肺に孔が空いた。
「稼げないよ」
お前だって大した職じゃないくせに。なんでだよ、否定する暇あったら応援してくれよ。産みの親でもないお前が否定してんじゃねえよ。何でだよは此方の台詞。歯も弾け飛ぶ。さあ反撃だ。
「貴方には大層立派な夢があったんですか、無かったんでしょう、僕が妬ましいのでしょう、羨ましいのでしょう」
泣き顔は酷く穢らわしい。此方を向くな。吐き気がする。刺された分だけ刺し返す。それでも足りない。僕は今も紅いのだから。頭が切れた。生暖かさが僕の額をツウ、と辿る。
「君には失望したよ」
そんなの知るか、僕はお前の道具じゃない。勝手に信頼してんじゃねえ。僕だってお前にはとっくの昔に失望してんだお互い様。僕の眼はグシャッと音を立てて弾け飛んだ。左目は見えない。残されしは右目だけ。
「君はやっぱり異常だ」
嗚呼駄目か、右手も飛んだ、何も投げられない。仕方無し、心理戦だ。
「貴方は夢も持てない冷血漢。可哀想に。見えないんだろう、未来も路も。示された路しか歩いて来なかったのだろう」
さあとうとう心の臓も動きを停めた。あとどれくらいだ、どれだけ待てば良い。
「君は後から後悔するだろう」
嗚呼、此れは、両目が見えなくなったぞ。
「はい。そしたら其の時考えましょう」
僕が身体を失ったとき、漸く闘いは終わったのだ。僕の身体は残されぬ。然し勝利したのだ。僕の勝ちだざまあみろ。
僕の身体は砕け散ったけれど、手に入れたものは大きい。手に入れたものを胸に、さあ生まれ変わろう。新しい身体を手に入れようか。容れ物探しの旅に出ましょう。
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