君ノ熱量ヲ感ジテ

 美しいもの程汚したくなると言ったのは何処の誰だったか、忘れてしまった。

 真っ新なカンバスにこそ、色を置きたい。此れが人の真理なのだろう。


 あたしはまだ穢れを知らない。誰かに汚されてしまいたい。恋情など持ち合わせていないが、誰かとの繋がりは求めている。其れが誰なのかも分からないけれど。


 嗚呼、君の熱量を感じたい。君に溶かされてしまいたいよ。とろとろと、そしてどろどろと。『私』という形が無くなる迄、私を溶かしてほしいのだ。珈琲に溶けるミルクの様に、貴方に私を溶かして欲しい。

 君になら出来るのでしょう。君は私を好いてはくれていないかもしれないけれど、君は私を鎖で繋ぐことは出来るでしょう。

 私の容貌かおを見て幻滅したかしら。私の言葉に呆れたかしら。萎えてしまうのなら仕方無し。けれどそうでないのなら私を汚して。


 君だって、少なからず興味はあるのでしょう。

 だったら味見くらいしてくれたって良いじゃない。私はさっさとこんな自分なんて棄てたいの。味見だけして棄ててくれたって構わないわ。捨て身だって怒るのなら私を好いてくれても良いのよ。私は君に恋情を持つことは出来ないけれど、それでも良いのなら。


 ほら、あと一歩。後ろのベッドに私を倒してくれさえすればいいの。外の光りが邪魔なら後ろ手でカーテンを閉めましょう。

 まだ透明な私を貴方の色で染め上げて。


 朝帰りがしたい。貴方の部屋で夜を過ごして朝焼けの街を歩きたいの。君の匂いを纏って家に帰りたい。私が意識を飛ばすまで、貴方が果てるまで、繋がりが欲しいの。愛が無くたって抱けるでしょう。恋が無くたって口付けられるでしょう。

 ほら早く、君の香りに染め上げて。私という存在を掻き消して。


 経験値が欲しいの。願わくば、恋を知って愛を求めたい。生きていくのは簡単じゃないの。生きてく理由が欲しいだけなの。

 私が生きてる理由は何。君という名の鎖で繋いでよ。君はこっちを見てくれない。意味深な素振りを見せておきながら、肝心な時には逃げるのね。臆病な人。こんな屑なんてさっさと抱いてしまえば良いのに。

 さあ穢してよ、聴かせてよ、染め上げてよ。私を君だけのものに。都合の良い女で構わないから、君の熱量が欲しい。

 私は霙。貴方は太陽。雪混じりの涙を暖めて溶かしてよ。

 君の体温が欲しい、私の心をあげるから。今の私はさっき飲んだクリームソーダのように甘い筈よ。ほら味見くらいしてくれたって良いじゃない。

 飴玉じゃ足りないくらいに私を食べて。求めて溺れて死にましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る