添加物

 立ち並ぶビル群。都会は空が狭い。箱庭の様に、私達を閉じ込めているのか。

 自然を破壊した人間、追われる自然、異質な人工物、増える人工物、増加し続ける人工物。最早人工物しか無い。周りを見れば、人工物、人工物、人工物――。

 私は臓物を吐き出しそうになる。気味が悪い。人工物は増える一方だ。今日も何かよく分からない縦長の直方体を作り続けている。其処に自然は皆無。鉄筋とコンクリートに埋められた空には生を感じられぬのだ。

 謂わば此処は自然に於ける添加物の集合体。後から化学調味料で味付けし直した、添加物のパレード。お祭りの様に集まった人工物が宴を行う祝宴会場。

 嗚呼、異質だ異質だ。自然の摂理などとうに捨てたのか。私にお前らの思考は理解出来ぬ。添加物、添加物、添加物の山。

 亜硝酸ナトリウム、アスパルテーム、安息香酸ナトリウム、カラメル色素、加工デンプン、グリシン、コチニール色素、タール系色素、ナイシン、OPP、TBZ、イマザリル、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、アセスルファムK、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム――人工物たるビル群なんてこれら食品添加物と何ら変わり無いのである。

 こぞって食品添加物は避けたがる癖に人工物は避けぬ。人間とは理解し難い生き物である。本来人間という生き物も自然の一部であった筈だ。少し大きな脳味噌を手に入れた途端これだ。

 嗚呼、私はこの人工物の庭には到底居られぬ。逃げたい。然し逃げ場も無い。右を見れば人工物、左を見れば人工物、前を向けば人工物、後ろを振り向いても人工物……残されたのは限りある空の一欠片だけなのである。

 下に敷かれるもコンクリート。街路樹にも人の手が加わっている。汚れた人間が触れば植物も汚れてしまうだろうに。動物園なんて以ての外だ。あんな檻の中に自然の象徴たるものたちを閉じ込めて、一体何がしたいというのか。

 其れは権力誇示か、はたまた強者による弱者への見せしめか。只の人工物の牢獄が自然と逆行していることにより滅びようとしていることも、彼らは未だ知らぬ。気付けることでもないのだろう。生まれた時には既に人工物に囲まれていたのだから。文明の発展が地球を滅ぼそうとしていることを、私は忘れてはいないぞ。お前らは果たして何時知るのか――気付いた時にはもう遅いのだろうよ。足掻け、苦しめ。其れがお前らが今までやってきたことだ。

 そう遠くは無い未来を想像して私が口の端を持ち上げる中、思考を放棄した人間たちは、今日も忙しなく人工物の要塞を走りまわっている。

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