第8話 話したくない話2
「――あたしは別にどうなってもいいんだ。誰かに尽くすとか考えられないし、独り身のほうが気楽じゃん」
風満の態度に、二人は息を呑むのが分かる。これが次期族長なのだから、楽観的過ぎるといわれてもしかたない。
「だって、それじゃ、どうなるの?四年前の伝染病でたくさんの人が亡くなって、三十歳以下は私たち三人と剄兄さんだけ。剄兄さんは一人で生きるって言ってるし……」
科戸は黙ったままだ。
たとえ友達でも、風満は族長の娘で二人は里の人間で。族長の命令は絶対。次期族長の命令も、それに継ぐ拘束力を持っている。
「……私は、風満の決定に従う。次期族長としての決定に従う」
若葉は迷いなく私を見つめていた。科戸がしびれを切らし、はじめて口を開く。
「それって、どういうことだよ。自分の意思は?気持ちは?若葉は流されるままでいいのか!?」
「これが私の意思よ、科戸。私は、風満がしっかりした決断をしてくれるって信じてる」
「なんだよ、それ。なんなんだよ!」
二人の言い争う声を、風満は半分以上聞いていなかった。
次期族長。そんな地位いらないのに。決断、気持ち。私の声一つで人の人生が決まるなんておかしい。私が抗っても、族長である父が最終的な権限を持っているからどのみち一緒だ。
責任、桜、風の民。若葉の言っていることだって分かる。
私たちは風を送る風の民だ。風の民が消えたら、風無のいる世界を道連れにしてしまう。先延ばしでしかなくても、最大限の努力はしなければいけない。
科戸は自分に正直で、表の面だけを見ていて、あきれるくらいに信じている。若葉は一番冷静で、自分のことよりも全体を考え、裏の面も逃げずに見る。正確で残酷な現実。私たちはいつも目を背けていた。こうなることは分かっていた。
私はどちらでもない、中途半端だ。二人のことを考えようとしながら父親の顔色を伺っている。あげくには、あきらめている。そのくせ傷つけたくないと、私は踏み込んだことができない。踏み出せない。
踏みにじれない。人の気持ちなんて。二人はまだ言い争っている。
「やめて……。やめてよ」
静かなつぶやきは届かなかった。
もうやめて、なんで?決めたくない。
逃げたい。逃げられない。ここじゃないどこかにいきたい。行きたいよ。
「リウ、どうしてもか」
「……はい。里がどのような状態か知っています。このままだとどうなるかは分かっています」
「それでもおまえは――」
「そうです。フィアもミラルもそういうふうには見れない」
「おまえがフィアを娶れば全てが丸く収まるのにか」
空気が、鋭さを増した。
「何が、です」
怒気をはらんだ声が響く。
「確かにそれが今できる最善の方法だ。あの三人組の確執は起きず、円滑に暮らしていくことができるでしょう。でも俺は納得しない。俺は認めません」
「アイサのことか?」
「失礼します」
リウといわれた青年は答えることなく席をたった。
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