第6話 それぞれの思惑


「フィア、今いいか。大事な話だ」

 つかまりたくないと思っていたが仕方ない。今いいかといわれても風満に選択権はないのだから。

風満は嫌々ながら族長である父親に連れられ、一際大きなパオへと入った。

「フィア、お前もあと一月で十四だ。もう春は終わったな」

「一応ね」

「 おまえに春は来ないのか?」

 直接的な問い。たぶんこれだろうとは思ったが。

「……そうだね、来ないよ」

 分かってるくせに。何回聞くの?

風満ははっきりと宣言した。

「おまえは次期族長だ。私の後をいずれ継ぐ。ではおまえのあとは誰が継ぐ?」

 風満は目をそらさず、考えていた答えを告げた。

「ティラ・ミラル、またはアルマ・ルシェ。個人的にはティラ・ミラルが適任かとは」

 族長は頭を抱えた。

「フィア。私は族長代理の話をしていない。族長は代々シアロの姓を持つものが継ぐ。例外はない。直系傍系、候補がいない今、お前のあとはお前の子供が継ぐしかないんだ」

「私は継がないなんて言ってない。でも私は一人で生きていく」

 パオのなかは薄暗くなってくる。だんだん声も大きくなる。

「いいかげんにしろ。桜の木を切り倒させる気か」

 里では全員の苗字は木の名前だ。同じ姓のものがいなくなると、御神木の森にある家系の木を切り倒す風習がある。父さんはそれをかけて言っているのだ。この文句は言うことを聞かない子供に親が言う最終手段。主に嫁入りを渋るときに使われる。

「だったら私が長く生きる。それでいい?」

「何度言ったら分かる!!おまえはさっさと身をかためろ!」

 束の間の沈黙。何度となく起きる繰り返し。堂々巡りは終わってほしいけど、いいなりで終わるなんて、嫌。

「だれと!」

 風満は戦うことにした。親に反抗するなんて許されないからなあなあでかわしてきた。ここまできたらもう引き下がれない。

「だれと結婚しろっていうの。ルシェ?それともリウ?どっちかしかいないわよね?でもリウは結婚はおろか誰とも深く関わろうとしないわ!ルシェは――――ただの友達よ。どうしろっていうの、ねえ!」

 父親から頬を打たれた。泣きそうになりながらも、にらみつける。長い沈黙は父親に破られた。

「……フィア。ミラルとルシェにも伝えておきなさい。これからのことを、できるだけ早く三人で考えること。リウには私から話す。もう行っていい」

 ほどなくして、パオから人影が一つ飛び出していった。


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