第3話
風無が虚の中で暮らすようになって、数日。三人は楠のところへ交代で来て、いろいろなことを教えてくれる。もっとも、肝心な事は教えてくれない。
「風無、いる?」
今日は若葉が木製の洗濯板を持って来た。特に若葉と科戸が生活必需品を持ってきてくれるので、人の生活場所らしき空間が虚の中にできてきている。
「ありがとう。中においといてもらえたら」
風無は、何種類かの野草を缶に入れて火にかけていた。中身は自分で探してきたものだ。
「はあーい」
洗濯板を虚に置いた若葉は、調理の様子を見に近寄ってくる。
その目がゆっくりと瞬きをした。
「風無、食べられない草が入ってるわ」
「え?」
若葉はいつになくしっかりとした口調だった。
「ほら、この草はよく似ているけど別種なの。食べたらおなか壊しちゃう」
若葉の言う食べられない野草をさいばしで取ると、半分以上が土に落ちた。
缶の中身を見ると、すっかり寂しくなってしまっている。
「まだ教えていない草や花がたくさんあるから、分からない事があったら遠慮なく聞いてね」
まだまだ知らないことが多い。
風無は無言でうなずいた。そして、薪をくべようとして、楠の小枝を折ろうとする。
「駄目!!」
振り払えなくもない力で腕を掴まれる。思わず身をこわばらせてしまった。
「この森にある木は、みんな大事なものなの。傷つける事は許されないわ。薪に使うものは、落ちている枝か草よ。それに、生木は十分な火力がないと燃えにくいの。枯れているほうがいいわ」
「あ、御神木、だっけ……。ごめん」
風無は枝から手を離し、缶を見た。火は消えていた。
若葉の手も離れていく。
「……火が消えちゃったね。つけようか」
若葉が火打ち石を取ろうとすると、風無が無言でかすめ取った。若葉が見守る中、一生懸命火をつけようとするがうまくいかない。
そこに人影が現れた。ご機嫌な様子の風満だ。
「風無~、替えの服持ってき……あっ、火消えてる。絶やさないようにしなきゃね。あたし得意なんだ。ちょっと貸し……」
「自分でやるから!」
大きな声で、鳥が森から逃げた。一人はすぐにむっとした顔になる。
「何!?何でも一人でやらないと気がすまないわけ?それとも自分一人でできると思ってるわけ?言わせてもらうけど、あんたあたし達がいないと生きていけないよ。変な意地張らないで。……あとさ、もっと人を信用したらどうなの?あたし、あんたが何考えてるのかよくわからないよ。さらけ出してなんて言わないけど……もう少し、信じてよ」
「風満!」
若葉に答えず風満は乱暴に荷物を落とすと、そのまま走り去る。追いかけようとして、彼女は隣の人物を見やった。
「風無――」
風無は火打ち石を投げ捨てた。
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