第36話 動画配信者サオトメン

はいどーも、動画をご視聴者の皆さんお久しぶりのサオトメンです!

ちょっと更新が空いちゃいましたね、ごめんなさい。

さぁ、今回は一旦『一気食いシリーズ』をお休みしてですね、皆さんにはすっげぇもん見てもらおうと思います!

オレが今どこにいるか分かるかな?

勘の良い人は気づいたかもしれないけど……なんと、サイタマに来てます!

アチコチで封鎖されちゃってるサイタマに遙々とやってきたんです!


世間では色んな憶測が飛び交ってるけど、今ここには何があると思う?

分かる人いるかな?

なんと、魔族だ!

ゲームやアニメにしか存在しないと思われてた、魔王とか悪魔とか、そんなヤツらがウヨウヨしてるぞ!

彼らが実在してるなんて驚きだろ?


まぁ、仕事で絡むからさ、映像関係者は知ってたけどね。

この情報を漏らすと前科者になっちゃうから、一般の人には黙ってたけどね。

だからサイタマが唐突に封鎖された理由が、ネットじゃあ伝染病だの隕石落下だのテキトーぶっこいてるけど、全部違うからな。

ご丁寧に嘘画像まで作ってたヤツ、怒られても知らねぇぞ、覚悟しとけ。


はい、前置きが長くなったけども、今日はここで『素顔の魔族たち』について一緒に見ていこうか。

それでは行ってこようと思います!


※ ※ ※


さて、今は青空の元、西口公園で休憩中でーす。

今日は天気が良いのでね、虎っぽい魔族さんは日向ぼっこ中だね。

ちなみに顔とか撫でさせてくれるぞ。

しつこくやると牙を剥かれるけどな、程度を心得てりゃ問題ない。


おっと、あそこに知る人ぞ知る有名人のカリンさんが居るぞ、話しかけてみようか。

おぉい、カリンさーん!



「あいよ、早乙女さん。アッシに何かご用で?」


ーー今、ネット配信の動画を撮ってましてね。視聴者に何か披露してもらえません?


「そうですねぇ。じゃあ、こんなのはどうですかぃ?」


ーーおお、見事なバク転中返り! 着地も完璧じゃないですか!


「こんなもんで良かったですかい?」


ーーもちろんです、ありがとうございました!


「何かご不都合ありやしたら、お申し付けくだせぇ」



どうよ?

気さくだし、めちゃくちゃ礼儀正しいだろ?

オレと監督は、魔王の友人って事で、すいぶんと丁重に扱われてんだ。

まぁ魔族の中にはニンゲン嫌いも少なくはないから、誰とでも仲良く……とはならないけどね、居心地は良い方だと思うぞ。



※ ※ ※


はい、食事シーンです。

今日は皆でカレーを食べまーす。

ちなみにこれ、オレと監督の奢りだから。

まぁ、ほとんど監督の金だけどね。

オレは5千円しか出してない。


素材は全部大型スーパーで買ってきた。

オーなんとかっていう店な。

厳密に言えば店員なんて居なかったから、レジにおおよその金を置いて、後は欲しい食材を貰ってきた。

セルフレジってやつだな。


みんな喜んでくれてるけど、一番ウケが良かったのは馬人かな、ケンタウロスって言った方が伝わりやすいか。

ほんと大盛況だったぞ。

ケンタウロスって普段は忠義な騎士って感じでさ、表情や立ち振舞いがすげぇ厳ついの。

でもカレー食いだしたら子供みたいに顔を綻ばせるんだぜ、よっぽど気に入ったみたいだな。

そんな訳で、ちょっとインタビューしてみますねー。



「おや、客人。このような素晴らしいものを施していただき、感謝いたす」


ーーいえいえ、とんでもない。それよりも味の感想を聞いてもいいですかね?


「ふむ。数えきれぬ風味が緻密に交わり、極めて濃厚である。舌先に走る辛味も心地好いものであった」


ーー今の後半の言葉、特に『辛味』を言い換えてもらって良いですか?


「む? では、口内に閃光のごとき刺激が……」


ーーすいません、ちょっと荒々しくというか、汚い言い回しに換えてもらって良いですか?


「ふぅむ……。では、カレェで良いか?」


ーーありがとうございます! 凄く良い画が撮れましたよ!


『左様か。お力になれたのなら幸いである』



どうよどうよ?

気むずかしい顔して、割とお茶目だろ?

まぁオレが言わせたんだけどな!

そんでさ、彼らはおっかねぇ見た目してるけど、平凡なカレー1杯でここまで感謝してくれるんだ。

なんか親しみが湧いてくるよな。



※ ※ ※



はい、ここが本陣ってやつです。

今はケンタウロスの隊長さんとウチの監督、そして魔族の頂点である魔王ヒューゴさんが居ます!

良い機会なんで、ヒューゴさんに今回の経緯と意気込みを聞いてみましょうか。

ちなみに監督はもう、アチコチを撮ることに夢中だから、話しかけても無駄でーす。



ーーそれじゃあヒューゴさん、よろしくです。


『ぐ、クワッハッハ! ニンゲン風情がこの私に……』


ーーあ、すいません。演技は結構なので、普段通りにしてもらえます? 視聴者も素顔を見たがってると思うんで。


『あっ。ごめんなさい。カメラが回るとつい……』


ーーいえいえ、とんでもないです。じゃあ早速なんですけど、発端というか切っ掛けのようなものをお聞かせもらえますか?


『僕たちはずっと虐げられてきた。そして誰もが耐えきれなくなって、とうとう独立したんだけど、今度は食べるものに困るようになったんだ。それをどうにかしたくて、ここまでやって来たのさ』


ーー協定は当然ご存じですよね? 魔族の皆さんは、ニンゲン世界にやって来てはいけない、という趣旨の。


『もちろん。でも僕たちは追い詰められている。急いで問題を解決するために、手荒い手段を取らせてもらったよ』


ーー最終的な目的は、ニンゲンの駆逐ですかね?


『いやいや。そんな大それた事は考えてないよ。とりあえずは、僕たちの国を認めて、交易に応じて欲しいかな』


ーー今の言葉は、本当ですか?


『う、うん。嘘じゃないよ』


ーー最後に、動画視聴者に何かメッセージがあれば、お願いします。


『僕たち魔族は、君たちニンゲンからすると化け物にしか見えないと思う。でも、僕らにも心はあるし、傷つきもするんだ。その事をどうか忘れないで欲しい』


ーーありがとうございました、忙しい中すみませんでした!


『ううん。こちらこそ。ところでさ、後で暇になったらアレ見せてよ。ドーガってやつ』


「ええ、構いませんよ。動画くらい好きなだけお見せします」


※ ※ ※



とまぁ、こんな所だな。

皆にとってはまだ信じられない話だよな。

なにせ、ファンタジー世界の住民が物語から飛び出してきたようなモンだから。


でも、これは現実だ。

実際に目の前で起きてる出来事なんだ。

そしてオレたち人間は、彼らを知らず知らずのうちに追い詰めていた事もな。


最後にもうひとつだけ話をしよう。

オレたちが魔王軍と同行するようになった翌日の事だ。

道中で信じられないものを見つけたんだ。

何だと思う?


答えは、大勢のお年寄りだ。

だいたいは足が悪いとか、キツい持病を持ってる人たちだった。

てっきり逃げ遅れたと思うだろ?

話を詳しく聞いてみたらさ、違うんだよ。

もう何というか、唾を吐き散らしたい気分になったね。


取り残された人たちに身寄りが無い訳じゃない。

自分等の子供たちと一緒に暮らしていたのに、今も尚ここに居るんだ。

人間にとって得体の知れない『魔族の軍が来ると承知の上で』身内から置き去りにされたんだ。

これ、どういう意味か分かるよな。

胸糞悪いってもんじゃねぇ、性根が腐ってやがるよ、マジで。


見つけたお年寄りは全て手厚く保護している。

戦闘で衝突した警官隊もだ。

さすがに監視無しとはいかねぇが、悪くない待遇で捕まってるよ。


なぁみんな、一度真剣に考えて欲しい。

オレたちは本当にこのままで良いのか?

金だの出世だのに気を取られて、大事なもんを置き去りにしちゃいないか?


自分の胸に聞いてみてくれ。

そこに答えがあると、オレは信じている。

それじゃあ今回はこの辺で。

また近々更新する。

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