Present for you!!

【傀儡子ちゃん】


教会を後にしてアジトへ戻る途中で気が付いた。

べティちゃんの肩から綿が出ている。

激しい戦いの最中に斬られたというより経年劣化によるほつれに偶然何かが引っ掛かってちぎれた、というべきだろう。

傀儡子ちゃんは取れかかった右腕をしっかり握ってアジトに戻った。


****************


帰宅するなり裁縫セットを出してきて、床にペタンと座り込みべティちゃんの「治療」を始めた傀儡子ちゃんを他のメンバーは遠巻きに見ていた。

「どうせ、ぬいぐるみだろう。」

アーグネットが冷たいのではなく、全員にとっての共通認識だ。

本人が大事に抱えてるモノを否定する気はない。でも理解できているかと言えばそれはまた違う。

傀儡子ちゃんはよく分かっていた。


**************


こうして物言わぬご主人様の肩を治療するのは何度目だろうか。

肩からはみ出た綿を中に押し込んでいると、若干だが量が足りないと気付いた。裁縫セットを漁って中綿になりそうなものを探すが、あいにく使いきっていた。

「これ、使うか?」

マグマンドラが手を差し出している。武骨な指の隙間から白い綿が握りつぶされているのが見える。

「??」

ドカッと目の前に座り込むと、握っていた綿を解放した。

「あれだ、背中に引っ付いててな。」

確かにマグマンドラはトゲが多く、いつも色々なものが引っ掛かっている。ホコリだったり落ち葉だったりを見かけによらず綺麗好きなマグマンドラは嫌そうに体を振るって落としていた。

「クリスマスツリーのやつだろこれ。」

わかんねぇけど、と呟きながら綿を鋭い爪に巻き付けて絡めて遊んでいる。

クリスマスツリーなんて洒落たものはここには無いのに。

「…頂くわ……ありがとう。」

あなたは嘘が下手ね。



追加の綿を補充し、肩口を縫い合わせていく。ふと、裏から補強のために当て布を入れよう、と思い立った。適当な生地を探り当てるが少し大きい。切ろうと思って辺りを見たが、ハサミがなかった。

「……。」

影が射したので顔を上げると、アーグネットが無言でハサミを差し出していた。

「あら!これどこに…」

言葉を遮るように、アーグネットが横にストンと腰を落とした。

「…俺の身体に、くっついていた。」

あなたもなの?と笑いそうになったのを堪えて、ハサミを受け取る。

確かに、磁力を纏うアーグネットの手からハサミを剥がすのには若干の抵抗があった。でもくっついて剥がれない程ではない。

「…すまない。」

気にしなくていいのに。

「大したことじゃないですわ。」

あなたも嘘が下手なのね。



「ちょっと休めよ。」

後ろから覗きこむように立ったハギシリアスがコンビニのビニール袋を提げていた。

「もう終わりそうなのか?」

味気ないビニール袋を受け取り、中身を見ながらそうねとだけ答える。実際作業は終わりかけだったが、他の細かい部分が気になり、目的が治療から久々のメンテナンスに変わっていた。

散らかった裁縫道具を物珍しげに見ていたがすぐに興味が失せたらしく、もう行ってしまうらしい。

「いただきますわ。」

ヒラヒラと手を振りつつどこで覚えたのか有名なクリスマスソングを歌いながら歩いていく後ろ姿を見送る。

中身はコンビニのものでない、ちゃんとしたプレゼント用のクッキーだった。




クッキーを1つ摘まんで、いつものようにべティちゃんに見せるが、何も言わなかった。普段なら1つや2つコメントをしてくれるのに。

口にクッキーを放り込みながら、べティちゃんの右腕を持ち上げたとき手先のスタッズが一つ無くなっているのに気付いた。


「探し物はなんですかぁ?」

目の前にしゃがみこんだカゲロウの紅い爪がついていない方の手の中にちょうど欠けていた色のスタッズが乗っている。

「拾ってくださったのね。」

べティちゃんを腕に抱き右手を差し出すと、カゲロウは手のひらにコロンとスタッズを転がし傀儡子ちゃんの手ごとギュッと握り込んだ。

「早く元気になると良いな。」

暖かい手がすぐに離れる。

「…それは、どちらに対して?」

質問が返されるのは予想していなかったのか、ちょっと驚いたような顔をしている。

「どっちっつーか、な。二人とも。」

一心同体だろ?と何故かドヤ顔で言う。

「べティちゃんが元気になってくれねぇと傀儡子ちゃんの口数が少ないからな。」





自分でもわかっている。

べティちゃんはぬいぐるみだ。

でも一番のお友達でありご主人様。


タカダノバーバリアンに入って1年、急に人付き合いが増えた。

その中で出会った人たちは、ちょっと変わってたり怖い人もいたけど、悪い人ではなかった、と思う。

べティちゃんのことを馬鹿にした人はいなかったから。

…早稲田戦士たちでさえも。



向けられる視線の全てを恐れていたあの頃とは違う。

そのきっかけを与えてくれたのはきっとべティちゃんだけじゃない。



最後の糸を切ると、言葉が急に浮かんできた。

遠巻きに見守っていた仲間のもとへ駆け寄って。

『「メリークリスマス!!」』




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