天使とホワイトクリスマス
【ワセダブリュー&ソウダルフォン】
天使って恋愛の象徴だと思ってました、と言ったら、はぁ?と返された。
早稲田の天使さんは例外だったらしい。
確かに俺も悪い。その聞き方では恋愛と縁のない人なんですねと言ったも同然、いやそう思ったのは否定しないんだけど、けっこう失礼だったと思う。
正直もう話題がないんだ。初めは新入りの後輩ヒーローらしく当たり障りのない話をしようとしたけど。ちなみにどの話もあまり盛り上がらなかった。
「パトロール中にふざけるのはよせ、ワセダブリュー。」
「ふざけてはないっすよ? ほら、ちゃんと見てるし。」
実際問題、早稲田祭が終わったばかりでタカダノバーバリアンたちもおとなしい。そんな毎日見回ることもないのに。
「いつ何時、何が起こるかわからない。真面目にやるように。」
「はあい………」
じゃあパトロール中じゃなきゃいいってことか、と思ったが甘かった。
パトロール後、報告があるからとさっさと帰られてしまった。
「人付き合い、悪っ……」
いきなりご飯はハードル高かったかな。
******************
クリスマスにイベントが入った。
聖夜を共に過ごす恋人はいないので大歓迎だ。一人でやり過ごすよりチビッ子達と遊んだ方が絶対楽しい。
「楽しみっすね!」
「ああ。アカイザーの時代から続く毎年恒例のイベントなんだ。地域の子供たちとの交流の場としても貴重だからワセダブリューにとってもいい経験になるだろう。」
「あ、ああ~…いつもそういうお堅い感じなんすか?」
「また視線が一点に集中しているぞ。左前方ばかり見すぎだ。」
いや左前方のイチャついてる不審なカップル以外は他なんも無いでしょうに。見なくてもわかるよ。
「ソウダルフォンさんはお相手いないんすか?」
「そうだ。だが今は関係のない話を」
「どんな人がタイプですか?」
「…だから……タイプ、か………」
おっと、これは難しい質問だったか。
「まぁ、分かんないっすよね、俺もよく分かってないですし??」
「え?」
「え? って、いや、そうなんじゃないっすか、みんな。」
「…そうか、そう…………」
そして15分間無言。つらい。
考え込んでしまっている感じで、次の話題に移れない。
もっとこう、ノリのいい人がいいなあ! 真面目すぎる人は嫌いじゃないけど合わないんだよなぁ。ワケわかんなすぎてこの人苦手だと思ってるけど、でも先輩だと思うとフクザツだ。
******************
いよいよ近付いてきたクリスマス本番に向けて、ケーキの予約やらイルミネーションやら街中クリスマスムードだ。
そんな世の流れは関係無く、いつも通り苦手な先輩とパトロール当番っていうのは気分が上がらない。
若干遅刻気味で到着すると、ソウダルフォンさんは歌っていた。
変身していて聴覚が強化されているから聞き取れたんだなってくらいの、小さな歌声だったけれど。透き通るようなって褒め言葉がしっくりくる正に天使の歌声。でもどこか寂しそうな感じもする。
その歌は最近どこでも流れてるクリスマスソング。
ふと思い出した。
「お前もまだまだだなぁ!」
エンジークさんには敵わない。改めて目の前の壁の高さに気付かされて、自信を失いかけていた時だった。
「少し前のめりになりすぎだ。一歩下がってみたらどうだ?」
ソウダルフォンさんのアドバイスは図星なだけに、ちょっと堪えた。いつも見ているだけで、助けてくれないくせに。早稲田戦士じゃなくて早稲田天使なんだったら関係ないじゃないか、ほっといてくれよ。
俺はこれから、みんなの早稲田を守らなきゃいけない。
一緒にいたウイングさんが久しぶりに手合わせしないかとエンジークさんを誘う。明らかに全く手加減していない攻防に、自分はまだその領域には踏み込めていないのだと、さらに焦りが募る。俺に期待されているモノはこれなのか。
白熱した手合わせをやはり見守るだけだったソウダルフォンさんはこちらをちらりと見やっただけで、俺が気付いた時にはいなくなっていた。
なんか、悔しかった。
最近ようやく二人から褒められることが増えてきた。ブルースさんはあまり特訓を見に来てくれることはないけど、エンジークさんの言葉を借りるなら「信じてくれているから」だと感じている。
でもソウダルフォンさんはわからなかった。俺を未熟だと思っているのか、それとも何とも思っていないのか。パトロールのたびにこまごまと指摘してくる言葉は決して冷たくはないけど。
エンジークさんの熱い拳やウイングさんの背筋が凍るような剣裁きのほうがずっとわかりやすかった。強くなれよと。
「……来ていたなら言え。」
はっと現実に引き戻される。
「体調が悪いのか? 無理は・・・」
気遣わし気な視線が余計に耐えられなかった。
「ソウダルフォンさんは、俺のことどう思ってるのか知りませんけど、俺はっ! そんなに心配ですか!?」
「落ち着け、いきなりどうし」
「ほんっとに、大丈夫ですから。」
「…すまない」
言い過ぎた。なんでこんなにムキになってるんだ。
これは俺が悪い。
でもソウダルフォンさんはそのあと何も言わず、パトロールを完了させるといつも通りさっさと報告のために帰っていった。
******************
今日はいつもより遅い。
普段ならこの時間には来ていたのに。
まさか来てくれない、なんてことは……とソワソワしてしまう。
今思えばなぜ理解できていなかったのか。エンジークさんやウイングさんは俺が強くなれるように色々な戦い方を教えてくれていた。ではソウダルフォンさんから学ぶものがなかったのか? あの人はただ俺のことを見ているだけだったのか? 早稲田天使なんだから口出すなよなんて酷いことを思ってしまった。
あの人はずっと、ずっと俺のことを信じてくれていたのに。
俺は一人じゃないって分かったから。
きちんと伝えたい。
「すまない!」
ソウダルフォンさんが突然目の前に現れて思わずしりもちをつくほど驚いた。ワープだ。
そう言えばいつも俺が後だから見たことがなかった。
「す、スゴいっすね!!」
「そ、そうか?」
大したことではないが…となぜか両手を握ったり開いたりしている。
「…その、あれだ。」
「はい。」
「私に何か、言い残すこと、ないか?」
「…え…………はい???」
言い残すって? あれ俺ここでゲームオーバー? 確か早稲田天使って夢枕に立って指導とか出来るんですよね、そういうの俺スルーしたのかな? えっとあまりにも予想外すぎるような。
「いやっ、その言いたいこと、かな?」
ソウダルフォンさんは珍しく慌てているのかチラッと窺うような目線で尋ねてきた。
なんだこのグダグダな会話。
突然俺が笑い出したから、また困った顔をするのかなと思ったが、さすがにソウダルフォンさんもおかしさに気付いていたのか、ちょっと笑ってるように見える。
「はい、あります。」
いつも見守ってくれて、ありがとうございます。
ヒーローに大切なのは攻めの姿勢だけじゃない。そうですよね?
******************
「やっぱり先輩の仕業でしたね!」
やたらパトロールのバディが一緒だなと思ってたんだ。
「いいじゃない!仲良くなれたでしょ?」
「まあそうですけど!」
本当に可笑しそうに笑っているから少し悔しくなる。
「かわいいでしょ?」
分かりにくいですけどね。
俺はソウダルフォンさんについての見識を改めた。
ソウダルフォンさんは優しくて、強くて、ほんの少し不器用なだけ。本当はきっと恋だってしてる。
「俺今度からダルフォン姐さんて呼ぶことにしたんですよ。」
「えっダルフォン姐さんってちょっと、本人の許可とれたの?」
「ええ、好きにしろって。」
******************
子供達が集まってくる。
赤に白で見事なサンタカラーだなとダルフォン姐さんは言っていたが、クリスマスに天使もピッタリだと思う。
チビッ子にありがとうと言われて、少しそっけなく頭を撫でているのが見えた。丁寧に握手をしながら。
「照れてるんですか?」
と言ったら強めに小突かれた。
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