~④筒石駅~

15:48

4つ目の山岳トンネル内旅客駅の筒石駅へやってきた。


筒石駅は、県境を跨ぐトンネルでは無いが、11.353㎞の長大トンネルであり、2015年3月14日にえちごトキめき鉄道に移管されてからは私鉄日本一の長さを誇るトンネルになっている頸城(くびき)トンネル内に位置している。


この付近は、日本海の海岸線のすぐそばにまで急峻な山が迫った交通の難所になっている。特に、フォッサマグナと呼ばれる新潟県から関東平野の地下に始めU字型の溝の西側の縁部分にあたり、U字型の溝に堆積した比較的新しい地層の影響から地滑りや土砂崩れが起こりやすい地域でもある。そのため、狭隘な海岸線を縫うようにして横断していたかつての北陸本線は度々土砂災害に遭っており、蒸気機関車が土砂に飲まれて海岸付近まで流される事故も発生した。そのような背景から、崩れ易い地層よりも深い所をトンネルで一気に抜けてしまう新たな経路で結ぶ計画が遂行し、この付近の線路が三カ所のトンネルを貫く経路に置き換えられた。その際に出来たトンネルの一つが頸城トンネルである。新線区間には3つの駅があったが、そのうち2つの駅はトンネルとトンネルの間の地上部分(名立駅)やトンネルの入口部分に設けられることとなった。しかし残り1駅については旧駅付近に地上部分が無く、保安の関係からもトンネル内に設けられることとなった。これが、筒石駅である。


この筒石駅だけは、現在通年営業している山岳トンネル内旅客駅5駅中唯一の複線トンネルの中にある駅で、上下線ともトンネル内にホームが設置されている。ただ、ホームの配置は上下線で互い違いにそれぞれズレた場所にあり、交差点付近に設置された路面電車の電停のような構造になっている。これはトンネルの断面を小さくするためにとった施策だそうだ。


幅の狭いホームの端に、美佐島駅と同じく鉄の扉があり、この扉の設置理由も大方美佐島駅と同じだ。美佐島駅の回で記述した特急はくたかは、この筒石駅も通る。ほくほく線内のように時速160㌔で走り抜けることはないものの、時速100㌔以上で通過するので、やはり風対策が重要だ。この扉の向こう側は待合室で、そこからはひたすら階段上りになる。ただ、土合駅ほど深い所にある訳ではないようで、土合駅と比較すると少しばかり楽だった。途中の看板の矢印も斜めに描かれている。駅舎までの中腹辺りにホームまでの距離が書かれた看板があり、更に駅舎までの階段を考えると、この駅でも改札口からの駆け込み乗車は不可能そうだ。


駅舎に入る前にも風除けのついたてがあり、それを越えると改札口だった。駅員さん常駐の駅で、ここまでのトンネル内駅は全て無人駅だったのでどこか新鮮で、かつ違和感のようなものも感じた。

ちなみに筒石駅の駅員さんは、停車列車が到着する時にホームまで安全確認のために見送りに出てくる。一日に上下線合わせて36本分の列車が発着するので、交替するだろうが、36回もホームと駅舎を往復するのかと思うと、なかなかの重労働だ。


地上部分の駅舎は簡易的な建物のような感じだ。


ここから筒石の集落までは700㍍ほどの道を歩くことになる。


次に乗る予定の列車までは90分ほど余裕があったので、筒石集落へ歩みを進めた。



 筒石駅から700㍍先の筒石集落へ。駅の周りは何もない。集落から山へ続く道路の脇に、駅があることを示す看板が。

筒石駅の駅舎は、実は集落からかなり高い位置にある。海岸線ギリギリまで急峻な山が続くので、その山を貫くトンネルの中に駅を作れば当然高い所に駅舎が設けられ、その山の急峻な坂道を下って海岸沿いの集落へ行かなければならなくなる。駅から集落への道は、想像以上に急な坂道の連続だった。お陰で日本海の様子がよく見て取れた。


集落まで下りてくると、筒石漁港を一望出来る所に筒石駅の方向を示す看板がある。

すぐ下には国道8号線が横切り、更にその下が漁港だった。

せっかくなので漁港へ向かい、海に出ようと思った。

漁港へ続く通りもまた、急な坂道だ。しかし、のどかな景観で、とてもこの場所で何度も土砂災害に見舞われていたとは思い難い感じすらした。

漁港は、既に夕方で土曜日だったこともあり、非常に静かだった。その横には、漁船の修復所があり、この建物の独特な景観が漁村の雰囲気を醸し出している。


そして、ついに日本海へ。

山岳トンネルをテーマにした旅だけに、山ばかり見てきたが、海へ至るのも滑稽かと。筒石駅で90分の時間を取ったのは、実はこれが目的だ。

普段は太平洋側の地域に住んでいるので、個人的には日本海の海へ来ることはどこか特別な意味合いがあるように思っている。この旅で、日本列島を神奈川県から新潟県へ縦に横断したことを表す日本海の大海原。そんな日本海の荒波を眺めながら物思いに耽っていた。


夕日の日本海を拝んだ所で、筒石駅へと戻る。

この看板がある付近には、国道の旧道と、その旧道に近接する一車線分程度のサイクリングロードがあるのだが、これがもしかしたら北陸本線の旧線跡かもしれない。文献上、かつての筒石駅があった場所の近くだそうで、国道の旧道を横切りながら通過していることから、ここで踏切で旧道を横断していたのではないだろうか。


筒石駅への登り坂を一気に上がり、筒石集落を後にした。



 筒石駅へ戻ってきた。


駅舎で詰めている駅員さんから直江津までの切符を買い、トンネルの中へ。

思えば、駅員さんから直接普通の切符を買う事って、あまり経験がないかもしれない。


階段を下り、一気に通路を進む。そして、来たときより手前にある分岐点を曲がり、直江津方面行きのホームへ向かう。


ここでも、列車接近のアナウンスが不気味だった…

静かなトンネルの中、突然電子音が鳴り、響鳴しながら声が通るのである。

トンネル内のアナウンスとは、あまり気持ちよく聞くことが出来ないものなのかもしれない。


ホームへ出て、向かい側にある糸魚川方面行きホームを眺める。


以前、初めて北陸本線の普通列車で金沢から直江津へ向かう時、長いトンネルに入ってしばらく走行しているうちにやがてブレーキがかかりだし、ついにトンネル内で止まってしまったので事故が何かあったのかと不安になったことがあった。止まってすぐ、車掌さんから「筒石、筒石です」という放送が入り、こんなトンネルの中に駅があったのかと驚いた。思えば、トンネル内旅客駅に関心がいったのも、あのときの体験がきっかけになっているのかもしれない。


これで筒石駅は糸魚川方面行きホームと直江津方面行きホームの両方を利用したことになる。

山岳トンネル内旅客駅のホーム全てを利用する目標の達成へ、着々と進んでいると思った。


遠くから列車が近づいてくら音がし始める。

一日目のトンネル内旅客駅を巡るのは、これで全て終わった。

残る最後の1駅は、二日目に向かう。


17:24

直江津行きに乗って、筒石駅を後にした。


切符購入¥320

筒石17:24

日本海ひすいライン直江津行

直江津17:45着




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