~③美佐島駅~

12:58

三つ目の山岳トンネル内旅客駅、美佐島駅に降り立った。

この駅は、南魚沼の六日町と信濃川沿いの十日町とを貫く赤倉トンネル内に設置された駅である。

ちなみにこの赤倉トンネルは、日本の私鉄の中で二番目に長いトンネルだ。ちなみに私鉄で一番長いトンネルはこれから向かうことになる。赤倉トンネルの距離は10.472㎞。このトンネルの中に美佐島駅と赤倉信号所が設置されている。


さて、この美佐島駅もまた、知る人ぞ知る名所になっている。

「日本一怖い駅」

そんなフレーズで知られている。


まず、電車から降りると、ホームの中央に地上へと向かう通路があるが、ここに重厚な鉄の扉が?!

扉横のボタンを押してドアを開け、中に入ると、狭い空間に待合室と更にもう一枚の鉄の扉。この二つの電動扉は連動しており、片方の扉が開くともう一方の扉が開かなくなるシステムで、エアロックのような構造だ。

というのも、つい最近まではこのトンネル内を時速160㌔で駆け抜ける特急はくたかが走っていたため、単線分の断面しか空間がない狭いトンネルを超高速で列車が進むと、当然空気が押し出されて風圧が発生する訳だ。この風圧が、時速160㌔の列車で作られると恐ろしいくらい強烈な圧となって吹き抜けるため、その暴風を防ぐために設けられた設備である。開業前にこの扉を両方とも開放した状態で時速140㌔で列車を通過させる実験をしたところ、風圧が一気に地上の駅舎まで押し寄せ、駅舎内の待合室の扉のガラスが粉砕されたのだとか。

今は特急はくたかは無いが、前回書いた通りほくほく線の普通列車は時速110㌔で駆け抜ける。この駅は快速などの優等列車は止まらないので、風対策は現在でも重要だ。

構造的には、外のトンネルの暗さも相まって、まるで宇宙船のエアロックにでも居るような感じだ。


駅舎側の扉を開けて階段を上ると、先ほどまでの宇宙船チックな雰囲気とは全く異なり、温かみのある住居の一室のような駅舎内へ出た。駅の中というよりは、町の小さな診療所のような感じか?

乗車証明書の発券機があるので、それが唯一駅らしさを出している。


駅の外へ出ると、立派な「美佐島駅」という看板が。この看板の字は、なんと片岡鶴太郎さんの書いた字体を使っているのだとか。


駅舎の全容を眺めると、まるで山中にポツリと佇む小屋のように見えてくる。

駅舎と道路を挟んだ反対側は川になっており、雪解け水を含んだ水量豊富な流れがそこにあった。


駅舎に戻り、誰もいない中を散策していると、ホームの方からヒューという不気味な音が聞こえ始めた。どうやら、ホームに到着していた電車が発車したようで、電車が進んでトンネル内の気圧が陰圧になったために扉の隙間から風が吸い込まれていく音のようだ。

この音が名物の一つだが、今回のは普通列車。特急はくたかが走っていたときの音はもっとすごい音がしたことだろう。

さて、続いては駅舎内の待合室へ。ドアの形が一般の住宅にあるような形状で、扉を開けると、そこにあるのは誰かの住宅の居間にでも入ってしまったかのような錯覚を覚えた。

その待合室には畳が敷かれ、座布団が用意されており、ヤカンに茶飲み道具やストーブまで置かれているのだ。

付近の集落の方たちが集会所として使っているのだろうか。駅舎を地域のコミュニティーのための施設として利用するというのは、とても素晴らしい発想だと思った。そんな畳敷きの待合室で、次の列車が来るまでのあいだ仮眠させてもらった。一晩寝ずに行動していたので、30分ほどだったが貴重な睡眠になった。


列車到着の10分前にホームへ向かう。

ホーム手前の待合室で電車を待っていると、サーっという鉄の扉の隙間から風が入り込む音がし始めた。

列車接近の合図だが、徐々に大きくなり、あるところで待合室に列車接近を知らせるアナウンスがトンネル内を共鳴しながら流れた。

このアナウンスの共鳴と列車接近の隙間風の音は、不気味さを含んでいる。隙間風の音はどんどん大きくなり不気味さを助長しているようにも感じた。

ひとしきり隙間風の音が大きくなったと思ったら止み、扉の向こうに電車が止まっていた。扉を開けて電車に飛び乗り、美佐島駅を逃げるようにして後にした。


次は日本海沿岸にあるトンネル内旅客駅、筒石駅を目指す。


美佐島13:54

ほくほく線直江津行

↓42改札出

直江津14:46着



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