~②土合駅~
二つ目の山岳トンネル内旅客駅、土合駅の駅舎へたどり着いた。
土合駅も国道へ出る道の両側には1.5㍍以上はありそうな雪の壁に覆われ、雪山の中に溶け込んでいた。
さて、この土合駅だが、知る人ぞ知る名所になっている。その理由はこれだ。
「日本一のモグラ駅」
日本一という響きが名所の最大の理由だろう。更に、一日5往復しか旅客列車が無いアクセスの悪さから、秘境駅としてもその魅力に魅了された方たちが訪れるのだろう。現に、湯檜曽まで乗ってきた列車で見かけ、同列車で先に来ていた親子連れも駅構内を散策していた様子だった。
夏場に一度来たときよりは観光客は少なかったが、土合駅で乗車した二番列車からも下車客が出たので、毎回数名程度の見物客が来ているのだろう。
待ち時間もだいぶあったので、じっくりと駅構内を見物させてもらった。
この土合駅も湯檜曽駅と同様に、新潟方面行きホームのみがトンネル内にあるため、東京方面行きホームは駅舎すぐ横の地上にある。
このトンネルも、湯檜曽駅と同じ新清水トンネルである。トンネル長が13.5㎞にも及ぶ長大トンネルだ。
駅舎から新潟方面行きホームへは、専用通路で先の国道と湯檜曽川の上を越え、そのまま対岸の山へ入るトンネルを進んで行くことになる。
この通路が、実はとんでもないのだ。
まず駅の改札口にこんな看板がある。
・486段の階段
・10分要します
要約すると以上二点だ。
ホームまでが遠い。改札口から発車間際の電車に飛び乗ろうと駆け込み乗車しようとしても間に合わないだろう。
改札口を通り、新潟方面行きホームの1番線へと向かう。その通路内部は、ひと昔前の山村にある学校の廊下を彷彿とさせるような趣だ。
途中の風除け用扉のホーム側には、「お疲れさま」「階段数462段」「あと24段」「頑張って下さい」といった文が並ぶ看板がある。夏場に来たときはホーム側から駅舎へ向かって歩いたため、駅を出るにもなかなかハードな道のりだったことは深い思い出となっている。
この扉を越えると、正面に薄暗い穴が見えてくる。この穴から先がトンネル内である。トンネルの入口からは、一直線に階段を下った先にホームがあることが見て取れる(写真9)。つまり、線路が通っている場所は駅舎よりもずいぶんと下を貫いていることがわかる。湯檜曽駅では上下線で高さはほぼ同じだった線路が、ここまで来る間に上下線間に486段の階段分の高低差が出来ていたのである。東京方面行きの列車は、土合駅から下り坂を滑りながら湯檜曽駅や水上駅へと駆け抜けていく訳だ。
さて、この大穴のような新潟方面行きホームへの階段を下り、新清水トンネルの中腹に設置された二つ目の山岳トンネル内旅客駅のホームへ向かった。
土合駅下り新潟方面行きホーム。
二つ目の山岳トンネル内旅客駅のホームである。
486段の階段を下りて来てふと階段の上を見上げると、かなりの高さがあることがわかる。
そんな階段のすぐ脇に「ようこそ日本一のモグラ駅へ」という看板が設置されている。この駅で降りてきた見物客用の案内で、これから始まるであろう486段の階段上りについての説明がなされている。
階段を終えてそのまま直進するとホームである。
ホームは全体的に薄暗く、まるで夜中の都市郊外にある駅のような雰囲気だ。地下駅は地下駅でも、地下鉄の駅ほど明るくもなく、飾り気もない。湧き水が沁みだして茶褐色に染み付いた床や苔むした壁、コンクリート剥き出しで電気や無線などのケーブルが露出している天井など、その無骨さが山岳トンネル内旅客駅の魅力の一つだと思っている。
この場所は、元々本線と待避線の二本の線路が並行していたようで、かつては待避線にホームが設けられていたようだが、現在は待避線が撤去されてホームを待避線だった場所に新設して旧来のホームと繋げたようである。
ホームの両端から線路の先を眺めると、撤去された待避線の遺構が残っているのを確認できる。
それにしても、どっちを見ても真っ直ぐ線路が伸びているだけ。まさにトンネル内だ!
列車の到着予定時刻の約5分くらい前からホーム上に微かな風が吹き始めた。トンネル内に列車が入った証拠だ。列車が近づくにつれてその風は強くなり、やがて遠くの方から列車の走行音が聞こえ始める。到着予定時刻3分前くらいから列車の姿を確認することが可能で、始めは小さかった前照灯が徐々に大きくなり、刻々と列車が駅に近づいてくることがわかる。まさに、触覚と聴覚、視覚を使って列車の接近をしっかりと感じ取ることができる。
09:56発の長岡行第二便からも、数名の下車客がいた。入れ替わるようにしながら車内に乗り込み、二番目の山岳トンネル内旅客駅の土合駅を後にした。
次の山岳トンネル内旅客駅からは新潟県だ。しばらく関東地方に別れを告げて、新潟県の越後湯沢へと向かった。
土合09:56
上越線長岡行
↓
越後湯沢10:21着
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