4

何事もなく、月日は過ぎ、やがて友人の結婚式当日を迎えた。

受付を通し指定された座席につく。厳かかと思えば、そういうわけではないらしい。

しばらくすると、一人の男が声をかけてきた。


「……こちら、よろしいですか?」


その男は、銀髪の赤い目をした、どこか違う世界の人のようだった。

――魔法がある、この世界では銀髪も、赤目も珍しくはない。ただ、雰囲気が、この世界の人とは違う何かだった。


「貴方も、二人のご友人で?」


そう聞いてくる男に、嘘をつく理由もないと、一つ首を縦に振る。

すると、男は目を細めて、俺の顔を見てくる。


「お名前を伺っても?」

「……悠夜、相楽(サガラ)悠夜です」


――不思議と、素直にそう答えていた。


「ユウヤ……いい名前ですね。私のことは、睡蓮、と」

「スイ、レン……」

「そう、ちょうど、この手の模様と一緒の……ね」


そう言って、スイレンは、俺の左手を軽く持ち上げた。

そこには、「今は何も見えない」。――そう、何も。


「……っ!!?」

「おっと、式が始まるようですよ」


一番後ろの、端っこの席だ。誰も気にしないだろうが、動悸が止まらない。


――なんで、分かるんだ、こいつ。


もちろん、左手の甲には、本来、青い痣が付いている。蓮の花のような、痣が。しかし今は、魔法で何もないように見せている。はずなのだが――。そう思いふけっている間にも、式は進んでいく。新郎新婦である、友人二人が出てきて、誓いの言葉を交わしている最中だった。

俺は、横目でスイレンを伺いながら、そんな幸せの時間を見守っていた。



*****



「ちょ……ちょっと!」


式が終わり、式場の庭でのささやかなパーティーが始まり、数分経った頃、俺は人目につかないような式場を囲む森の一角で、スイレンに手を引かれていた。


「なにする……んだっ!」

「ふふ、私の……いや、俺の愛し子。やっと見つけた」


スイレンは、俺の左手の甲に騎士がするような、口づけをすると俺の左手にかけていた魔法が解ける。

そして、現れたのは青い蓮の――……


「……あ?」


左手の甲にあった、青い蓮の花の痣は、さらにその形に、青い鎖が巻き付くような模様を重ねていた。

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