第2話

勇者特権とは、魔王を討伐する為に必要な物資や立ち入り禁止区域の侵入許可などがある。


そして、それ以上に厄介な特権が勇者パーティーに魔法具の使用許可及び魔法具の解放である。


魔法具の解放により伝説級の魔法具から三等級の魔法具まで勇者達に支給された。


魔王討伐の為に使われる物が勇者達の手によって人々を苦しめてしまうようになったのだった。


店主は話し終えた後、深くため息を吐き、愚痴をこぼした。


「全く、勇者ってのは自分勝手でロクな奴しかいやしねぇ。勇者なんてクソくらえだ」


「“勇者は民衆の為にあれ”。本来の使命を蔑ろにして、人々に迷惑をかけている。今、世界中で勇者達が暴れ回っているのですね」


「力の無い私達はいつも迷惑していた。この村の者のほとんどが勇者達に家族やお金、仕事などを奪われました。私もそうです」


そう言うと店主は黙ってしまった。

よほど、辛い事があったのだろう。


そんな気持ちを振り切るように明るい口調で質問してきた。


「そういえば、お兄さんは世の中のことに疎いのかい?このようになって十数年経ってるというのに」


「今まで田舎に居たんだよ。さっきみたいな事があって少し驚いているんだ」


「そうかい。なら、いい事を教えてあげるよ。悪さを働いている勇者達は賞金首になっている事は知っているかい?」


「知ってる。そいつらを捕まえて旅の路銀を稼ごうとしてたんだ」


「なら、話が早い」


店主は掲示板の張り紙を指差した。


「あそこのリストは皆高額の賞金首だ。最近近くで勇者が暴れて、ひと騒動あったらしい。出会ったら関わらないことだ」


「へぇ、後で見ておくよ。でも、そんな勇者が来たらこの村も一たまりもないんじゃない?」


「無名の勇者ですら手を焼く始末だ。来たら来たで“嵐が過ぎるのを待つ”さ。何を壊されても、誰を殺されてもな」


少しでも世の中のことを知ろうとして、会話の地雷を踏んでしまった。

どのように言い繕うか悩んだが、店主は明るく振る舞った。


「しみったれた話をしてすまないね。そういえば、さっき狩人さんが野ウサギをくれたんだ」


そう言うと俺の前にスープを振る舞った。


「さっきのお礼だ。お代はいらねぇから食ってくれ」


正直言って、食べ物には目が無い。

スプーンで口に運ぶと素直な感想が出てしまう。


「美味い。おじさん、美味いよ」


「そりゃ良かった。実は昔、コックをやっていて、腕には自信があるだ」


あっという間に食べ切ってしまった。

物足りなさを感じながらも気持ちを押し殺した。



そんな時だった。


外から悲鳴が聞こえてきた。


急いで外に出て声のした所に向かうと黒尽くめの四人組がいた。


何かで切ったような形で周りの家が半壊し、火が出ている。

村人が怪我をして悲鳴を上げていた。


「止めろ!何者だ!」


「何者だと言われたのは久しぶりだぜ」


目をギラつかせて、黒尽くめの剣士が答えた。


店主が慌てて割って入ってきた。


「ダメだ!旅の人!そいつは“暗黒の勇者”だ!」


「旅の…、そうかお前が“旅の楽士”だな。俺の遊び相手になれよ」


暗黒の勇者は腰の刀を抜いて、剣先を俺に向けた。


「待てよ、ジル!今回は俺にヤらせろよ」


体格の良い男が大剣を肩に担いで、割って入ってきた。

どうやら、彼が家を壊したのだろう。


「お前はさっきからはしゃぎ過ぎだ。コルドー。コイツは俺がヤる」


「チッ、まぁいい。おもちゃには困らねーからな!」


コルドーは怯えている村人に切りかかって行く。


すると、近くにいた狩人がコルドーの一撃を農業用のクワと狩りに使う小刀で受け流し、大剣が地面に落ちると轟音と共に地面を抉った。



「そんな物で俺の大剣を受け流したのはお前が初めてだ」


「バカみてぇに振るもんだから誰でも出来んだよ。お前、おもちゃが欲しいんだろ。相手になるぜ」


先の砕けたクワをクルッと回して、脇に挟み、小刀を構えた。


「クパード!遅かったな」


「バカ言え!これでも急いで来たんだ。コイツは任せろ!…コルドーとか言ったな。少し離れたところに川がある。邪魔にならないよう、そこで殺ろうぜ」


「いいだろう。ジル!コイツは貰ってくぜ!」


クパードは俺に向け、手で合図を送り、コルドーと共に村の外れに消えた。


「お前、あの狩人の連れか」


「まーね。あんた達の内の一人と戦って貰うように言ってたんだ。村人たちを守りながら複数人の魔法具使いを相手するのはキツいからね」


「それはそれはご苦労様です。しかし、残念ながら私達は皆が魔法具を持っているんですよ」


「そうなのよ。それにウチらは魔法具が無くても魔法が使える。一人じゃ、どうしても相手に出来ないわ。腰の安っぽい剣じゃ魔法は切れないでしょ」


ジルの後ろの黒尽くめの二人、一人は一回りくらい上の落ち着いた雰囲気の男と若めの女性が手のひらから火の玉を作る。


「みんな逃げて!」


シスターが駆け寄りながら声を上げた。


村人たちが慌てて逃げようとするが子供と怪我人が逃げ遅れていた。


「まずは殺しやすそうな所から」


危険を顧みずに店主が子供を抱える。

店主たちと怪我人に向けてそれぞれ火の玉を飛ばした。


俺は二人をかばう形で割って入り、抜刀しながらマントを丸め火の玉に投げて切った。


怪我人の方はシスターが相殺した。


「ウチの魔法をそんな方法でかわすなんて、少しはヤルみたいね」


「こちらの女性も少々腕に自信があるようですね。ま、タイプではありませんが」


「ナジャ、ローベル。お前たちはあの女をヤれ」


「いいでしょう。少し気が進みませんがゆっくりといたぶって差し上げましょう」


ローベルは小手のようなものを装備して、微笑みながら指差した。

指に光が集まる。


「一撃では殺さないので安心して下さい」


一瞬、風が吹いたような音がした。


ローベルの腕を矢が貫いていた。

ローベルが矢の来た方向を見ると人影が木々を移動しているのが見えた。


人影は俺の隣で止まり、矢を構えた。

影の正体は酒場のウエイトレスだった。


「ナタリ姉!大丈夫?」


「ニファ。予定通りにしようか」


「うん。気をつけてね」


「お互いな」


ローベルが不気味に笑い出し、腕に刺さった矢を抜いた。


「ヒヒヒッ。実に可憐なお嬢さんですね。これは私が相手をしなければ!」


「うっ、なんか気持ち悪い」


「…ニファ。大丈夫か?」


「…大丈夫。…多分」


ローベルの異常なテンションに気持ち悪さを感じ、俺も言葉にしづらい事を考える。


ニファが走って村の外に出て行くのをローベルが奇声のような笑い声を上げて追いかけて行った。


「ロリコンが。オイ!そこの幸の薄い年増!ニヤついてないで掛かって来なさい」


「ウチは年増じゃねー!」


「幸の薄さは隠しようが無いか。残念だな」


「ブッ殺す!」


ナタリーがローベルに対して、ストレートなコメントを発し、ナジャにはオプションの多めな挑発をした。


「ハハッ!お前ら最高だぜ!笑わせるだけじゃないだろな!」


「笑っていられるのは今の内だ。“暗黒勇者ジル”、お前の悪事はここまでだ」


「そのセリフは聞き飽きてんだよ!」


切り掛かって来るジルに刃を合わせた。




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勇者が大発生 三色のピグレット @umibozu

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