勇者が大発生

三色のピグレット

第1話

人々は神話として語り継ぐ。


始まりの魔王とその眷属達が現れ、人間達と戦争を始めた。


これをのちに“人魔戦争”という。


異形な魔人達の力の前に人間は次第に劣勢に立たされた。


人間達はこの状況を打開するべく、少数精鋭での魔王とその眷属の討伐を“彼ら”に命じた。


彼らは魔族を討ち果たし、一人は“無双の大英雄”と呼ばれ、四人は“始まりの勇者”と呼ばれた。



そして、数百年後。


狩人の男が野ウサギを捕まえたようだった。


「やっと、捕まえたよ。」


矢を引き抜き、持っていた小刀でトドメを刺した。

ウサギの下処理を済ませていると四人の旅人が話し掛けて来た。


「オイ!そこのゴツいの!この付近に村はないか?」


「近くにアギョウ村がありますが」


軽装で腰に剣を引っさげている男が声を上げた。


「久しぶりの村だ!オイ、ゴツいの。さっさと案内しろ!」


「疲れたわ。宝石でもあればいいけど」


女性の魔法使いが気怠るそうに呟いた。


「ゲヘヘッ。そんなことよりまずは酒だ!こんなショボい村でも酒場ぐれーあんだろ!」


大柄で顔に刀傷の男が声を上げた。

大剣を背負っていて戦士なのだろう。


刀傷の男を諭すようにメガネの中年男が注意する。


「品がないですよ。まぁ、お腹空いていますし、酒場に行くのは賛成ですけど」


「とにかく、適当にメシでも食ったらやる事やるか」


「あのぉ。こんな辺境になんのようで?」


「うるせぇな。テメェはさっさと村まで案内すればいいんだよ」


そう言うと狩人を足蹴にした。


「痛い!案内するからやめてくれ」


「わかったら言う通りにしろ!」


「デケェ図体して弱ぇヤツだぜ」


「だっさぁい!」


四人と狩人は村に到着した。

村に到着すると狩人をまた足蹴にして追い払う。


「あなたは用済みですよ。さっさと消えてください。私達の気が触れない内にね」


「ハイ!分かりました!それでは!」


狩人は足早に去っていった。


「だっさぁい!」


軽装の男が村人たちに向けて声を上げた。



「俺達は“勇者パーティー”だ歓迎しろ!オイ!そこの娘!村を案内しろ!」



村人たちが動揺している。


そう言うと村の娘を呼び止めた。

どうやらシスターのようだった。

刀傷の男が腕を力任せに引っ張り、引き寄せる。


「ゲヘヘッ。見ろよ。いい女だぜ」


「女ァ!酒場へ案内しろ!」


「乱暴はやめて下さい!」


「きゃはっ!だっさぁい!」


シスターは仕方なく酒場に案内した。

酒場に入ると店主とウェイトレス、カウンターに一人、テーブルに村人が二人。


「ゲヘヘッ。テメェら退けよ!俺達は勇者パーティー様だぞ」


テーブルの二人は何かを察したのかそそくさと店から出る。

四人が空いた席に座る。


「では、私はこれで…」


怯えながら声を上げ、シスターが去ろうとすると軽装の男が腕を掴み、呼び止めた。


「付き合い悪ぃ女だな。お酌ぐらいしろよ。オラ店主!高い酒と食い物持ってこい!」


ウェイトレスがボトルとグラスを運ぶ。


「おっ!いい酒あるじゃねぇか。乾杯!」


「店主!早くメシを持ってこい!」


店主はそそくさと食事の準備を始めた。


「本当にいい時代になったような“勇者パーティー”って名乗れば逆らうヤツはいない」


「全くです。数百年前の“始まりの勇者”達が大変良い働きをしたからですね」


「魔王が復活でビビって王国政府は勇者パーティーに多くの“特権”をくれたおかげで好き勝手できる」


四人の笑い声が店内に響き渡る。


やり取りをしているとウェイトレスが料理を運んで来た。

軽装の男が適当に料理を口に含み、店内を見回すとカウンターの男と目が合った。


カウンターの男は軽装にボロいマントを羽織り、腰には剣があり、傍らには弦楽器が置いてあり、どうやら旅の楽士のようだった。


「オイ!そこのお前!ちょうどいい。余興だ。俺と腕試しをしようぜ。負けたら腰の剣をよこせ」


「これは旅の護身用の剣。宜しかったら、差し上げます」


「腕に覚えがねぇ訳ねぇだろう。かかってこいよ」


「とても勇者様に敵う腕ではありません。ご勘弁を」


楽士はそう言うと腰の剣を差し出しだ。


「まぁそうだろうな。俺様は“村荒らしの勇者”って言うんだ。賢明な判断だと思うぜ。…なんだこの剣は?3等級もいいところだぜ。ボロいだけじゃねぇか」


楽士に剣を投げ返して、連れの3人に声を掛ける。


「腹ごしらえはその辺にして、そろそろ働くか」


「待ってました」


そう言うと酒場から出ようとする。


「お客さん!お勘定は!」


「金なら無ぇよ。今から略奪するから待ってろ。一銭もやらんがな!行くぞお前ら!」


酒場を出て、声を上げた。


「俺様は“村荒らしの勇者”様だ有りっ丈の金と食料を持っこい!歯向かうヤツは殺す!」


村人たちが怯え出した。

店主が止めに入る。


「お願いです!やめて下さい!この村だけは!」


「うるせぇな。ちょうどいい、見せしめだ」


軽装の男が腰の剣を抜き、詰め寄り、切り掛かって来た。


店主は切られると思いうずくまるが、なかなか刃が降ってこないのに気付き、顔を上げた。


すると、先程の楽士が割って入っていた。


軽装の男を突き飛ばし、店主に手を差し伸ばし、離れるように促したら男に向き直る。


「予定とは違うがお前たちをこれ以上見過ごす訳にいかない。相手をしてやるからかかってこい!」


「さっきのヘタレじゃねぇか。オイ!相手をしてやれ!」


軽装の男が刀傷の男を呼び、楽士の前に立ちはだかった。


「腰のショボい剣を抜けよ。ブッ殺してやるからよ」


「お前ぐらいなら素手で充分だ」


「ぶっ殺される理由にしては随分と間抜けだぜ」


「分かってないようだな。足りない脳みそで理解したなら、かかって来いよ」


激昂して、縦に切り掛かって来るが、スレスレで避けると接近して、片手で首を抑え、余った手でベルトを掴み、密着して相手より姿勢を低くしながら投げる。


刀傷の男が衝撃で苦しそうに息を吐き横たわる。

間髪入れずにメガネの男に詰め寄り、勢いに乗せて腹を平手打ちして、怯んだところを頬のあたりを蹴り飛ばす。


一瞬の出来事に驚き、軽装の男は言葉をなくした。


「二人を連れて、この村から出て行け、二度と現れるな」


軽装の男と魔法使いの女は怯えて、刀傷の男に肩を貸して、村を去ろうとする。


「覚えていやがれ!」


それに続いてメガネの男もフラフラと去って行った。


「助かりました。ありがとうございます」


店主が深々と頭を下げてお礼をする。

楽士の男は笑って答えた。



酒場に戻り、食べ掛けの料理を平らげ、ウェイトレスに話掛けられた。


「逃がしてよかったの?アイツらみたいなのって、他の村を襲ってしまうんじゃないの?」


「大丈夫だと思うよ。鼻っ柱を折ってやったから当分は大人しくしてると思うし」


「いちようアイツらも賞金首だし、捕まえてもよかったんじゃない?」


“村荒らしの勇者”4000Gのビラを見せてきた。


「当初の標的じゃないし、余計な労力になるだけだよ」


もう一枚ビラを出した。

“暗黒勇者”パーティー合計90000G


「そろそろ現れていいんじゃないかな」





アギョウ村の外れに先程の四人がいる。


「酷い目に遭いましたね」


「あの野郎。次に会ったらタダじゃおかねぇ」


「もう懲り懲りよ。最悪」


「しばらくは大人しくするしかねぇか」


道をトボトボと歩くと正面から黒尽くめの四人が現れた。


バッタリと向き合う形になり、道を塞ぐ。

刀傷の男が苛立って、黒尽くめの四人に突っかかる。


「なんだテメェ…ら…は」


言い終わる前に刀傷の男は切り伏せられた。


メガネの男が反撃をしようと魔法具に触れると視界が真っ暗になった。


「なんですか?いきなり夜に…」


「違うな。お前の視力を封じたんだ」


メガネの男が心臓をひと突きにされる。

軽装の男と魔法使いの女は震えて命乞いをした。


「そうだ、お前達に聞きたい。どこかに強いヤツいないか?」


「はい!この先にアギョウって村がありまして、そこに居る旅の楽士が強いです」


「そうか。ついでにお前達の持っている魔法具をよこせ」


慌てて女魔法使いが指輪を渡した。


「指輪か。要らん。お前にやる」


黒尽くめの1人の女に指輪を渡した。


「気が変わらない内に消えろ。二度と現れるな」


軽装の男と魔法使いは逃げるように去って行く。


黒尽くめの女が思いついたように喋りだす。


「あっ。そうだ!」


黒尽くめの女が地面に手を当てると無数の影のようなものが逃げている2人を追いかけ、体を貫いた。


「効果が分からないから試させて」


指輪から炎が出て来て、体を貫かれて身動きのできない2人を燃やす。

断末魔が響き渡り、丸焦げになった。


「なんだ、火が出る三等物か。要らない」


指輪を捨てて、影が破壊した。


「つまらないな」


「そう言うな。いちよう面白い事を聞いたじゃないか」


「この先の村の楽士か」


黒尽くめの四人はアギョウ村に向かった。

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