第28話 閑話 成長と困惑
「明日で15歳か」
相も変わらず俺の部屋で勝手にくつろいでいたルーナが盛大にため息をついた。
「どうした? 歳はとりたくない、とでもいうのか?」
「違うわよ。ちょっと理不尽だなーと思って」
そう言うと、ルーナは俺の身体にペタペタと触れてくる。
胸はもちろん、腰や太ももに至るまで、無遠慮に撫で回されるのは勘弁していただきたい。
「ちょ、くすぐったい! ってどこ触ってんだよ!」
ルーナはわきわきと指を動かす。そして己の胸に手を当てている。
そうかと思えば、ギロリと鋭い目で睨まれた。
「理不尽っ! 何でセラの方が大きいの? 願望?」
そんな言いがかりをつけられても困る。
俺はどちらかと言えば控えめな方が好みだというのに。
「あのなぁ、多分これは標準の範囲内だと思うぞ?」
分コレが大き過ぎるという事はない。
大きさだけならば、むしろアリアが一番だと思う。
「多分あんたはCくらいだと思うのよ。前の私よりちょい小さめだから、多分それくらい。……アリアは、あれは牛だから気にしない! それなのに……」
ぺたりぺたりと悲しそうに往復させる姿に、なんと声をかけたら良いのかわからなかった。
「Aはある。しかしBに滑り込めているか否か……それが問題だ」
苦悩の表情でそんな事を言うものだから、俺はうっかり吹き出した。
そしてまた、睨めつけられる。
「どうすんのよ! 将来こんなにささやか過ぎる胸のせいで、恋愛とか結婚出来る相手と出会えなかったら!」
俺の枕を握りしめたルーナは、ベッドにボスボスと叩きつけている。どこまでもルーナの八つ当たりは続きそうだ……。
辟易していると、扉を軽くノックする音がした。
廊下にまで聞こえていたようで、母様が笑いながら入ってくる。
「ルーナ、セラ。あなたたちもそんな事を考える年齢になったのですね。でも大丈夫です、そんな些細なことは心からの恋や愛の前では関係ありませんから」
恋や愛。
その言葉がやたら恥ずかしい。
今の俺が誰かに恋をすることなど、あるのだろうか。
さっきのルーナのように、男に触れられたら……。想像してしまったせいか、思わず鳥肌が立つ。
「お、私は恋も愛も必要ありません。一人ひたすらに塔で祈りを捧げる未来で結構です」
そう言うと、母様はどこか悲しそうに微笑む。
「そんな事を口に出してはなりません。今の気持ちがそうだとしても、この先に待つものがあるかもしれないのだから」
「私は誰かと恋してみたいな!」
ルーナのその声は、廊下でこっそり聞き耳をたてていたらしい親父殿の耳にも入ってしまったようだ。
「駄目だ! 恋するなら俺にしなさい! 結婚するのも俺にしなさい」
この世界に生まれたからか、男親の親ばかも、毎日グイグイこられるとかなり疲れる事がわかった。
母様が親父殿の背中を押して、部屋を出ていく。
「二人もそのうち素敵な人と出会えるわ」
そんな言葉を残して。
俺がおれである以上、素敵な相手なんてきっと存在しない。
俺の目標は「塔の聖女」になることだから。
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