芥子色のライダース・ジャケット take #5
さまよう25時
ショーウィンドウのスポットライトに浮かぶ、芥子色のライダース・ジャケット
誰のためにたたずむのか
顔のないマネキン
名前のないライダース・ジャケット
わたしもいっそ、
オートバイに乗れたらいいのに
そうすれば、こんな町など、
一瞬で
忘れられるのに
問われた質問の
答えを持ち合わせていないのですが
お生憎さま
いささか限界です
ここから何も言わずに立ち去ったら、
あなたは悲しむでしょうか?
憎むでしょうか?
それとも、
そうですね
―――きっとあなたは、何も思わない
冷たく冴えた街路樹のケヤキ
落葉樹は、冬にこそ美しい
だって、余計な飾りがないから
樹木そのものの、
簡素な線を
迷うことなく空に向けて
それで、
幸せですか?
答えのない質問は
心地よい
予期しない返答が
来ないから
芥子色のライダース・ジャケットは、
自分の人生を自分で切り開ける人にこそ、ふさわしい
ひとから小突かれて
こんな場所へと流れてくるしかなかった
私のような女には、
その洋服は似合いはしない
さまよい歩く25時
並べ立てられた
つまらない繰り言と恨み言
人気ない街路に響く、
突然のクラクション
驚いて身をすくめる
振り向くと、ドアの窓を開けて、片手をあげたあの人
あげられた片手は、
拝むように上下する
謝っても駄目ですよ
もう死んじゃおうかと思うぐらい
傷ついて
落ち込んだのだから
許してあげませんからね
お詫びは、
この、
芥子色のライダース・ジャケットじゃなきゃ、
受け付けません
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