第14話 僕とメイドはゴブリンと戦闘する




  *




 森の中を進み続けて数時間――ようやく目的地付近までやってきたところで足を止めた。


 理由は目の前に広がる光景を見たからである。


 そこは開けた空間になっていて、周囲には木々がなく地面がむき出しになっていた。


 そのため見通しがよく遠くまで見渡すことができるのだが、問題はそこではない。


 なぜならそこに大きな岩山があったからだ。


 いや、正確に言うと洞窟の入口のようなものがあると言った方がいいのかもしれない。


 なぜなら入口の大きさが尋常ではなかったからだ。


 おそらく馬車が余裕ですれ違えるほどの広さがありそうだったからである。


(すごい大きさだな……)


 そんなことを考えながら眺めていると、ふとあることに気づいた。


 というのも入口のところに何かがいるように見えたからである。


 しかも一つではなく複数いるようだったので目を凝らしてみるとその正体はすぐにわかった。


 ――ゴブリンだ! しかも五体もいるじゃないか! これはちょうどいいと思った僕は早速行動に移すことにした。


 ゴブリンたちは食事の最中だったのか地面に座って食事をしている最中だったのだが、突然現れた僕たちに気づくなり慌てて立ち上がったかと思うと手に持っていた武器を構えた。


 それを見て僕は剣を抜くとゆっくりと近づいていく。


 すると向こうもこちらに向かって駆け出してくるので戦闘開始である。


 僕は最初に近くにいた個体に向かって剣を振るった。


 すると剣はそいつの肩口を斬り裂くことに成功し、さらに返す刀で胴体を切りつけたら真っ二つにすることができたので倒したことになるはずだ。


 だがまだ安心はできないので残りの四体にも同じように攻撃を加えることにした。


 まずは一番近くにいるやつに向かって剣を振りかぶって叩きつける。


 次に隣の奴には剣を突き刺してから引き抜くと最後に残った一体に向かって剣を振り下ろす。


 これで残り二体となったわけだが、仲間がやられたことで怒り狂ったのだろう、雄叫びを上げながら襲い掛かってきたので迎え撃とうとしたそのときだ。


 突如横から強い衝撃を受けて吹き飛ばされてしまった僕は地面を転がることになった。


 いったい何が起きたのかと顔を上げるとそこには剣を持ったゴブリンの姿があった。


 どうやらあいつが攻撃してきたようだと言うことは理解できたんだけど、いったいどうやって攻撃されたのかはわからなかった。


 だって僕はあいつから目を離していなかったからね。


 それなのに攻撃されるなんてありえないと思うんだよ。


 そんなことを考えていたんだけど、いつまでも考え事をしている場合じゃないことを思い出したので起き上がると急いでその場から移動することにした。


 その直後、僕がいた場所に剣が振り下ろされてしまい、凄まじい音が響き渡ると同時に大量の土埃を巻き上げる。


 もしあのままあそこにいたら間違いなくやられていたことだろう。


 そのことを認識した僕は冷や汗を流しながらも、なんとかしなければと思い必死に考えることにした。


 しかし、そうしている間にも敵は次々と攻撃を繰り出してくるためなかなか集中することができないでいた。


 しかも、ただ闇雲に攻撃してくるのではなく、しっかりと連携をとって攻撃を仕掛けてきているために反撃する隙を見つけることができなかったんだ。


 このままだとまずいな……。


 そう思った僕は一か八か賭けに出ることにした。


 それは相手が僕に気を取られている間にメイが後ろから奇襲を仕掛けるというものだ。


 上手くいけばそれで勝負がつくはずなんだけど、失敗した場合は僕が囮になって時間を稼ぐしかないと思っている。


 その間にメイに倒してもらえればいいんだけど、果たしてうまくいくかどうか……。


 僕は不安を抱きつつも作戦を実行するべく動き出すのだった。


 動き出した僕はすぐさま敵に向かって駆け出すと剣で斬りかかった。


 それを難なく受け止めた相手はニヤリと笑みを浮かべると、お返しとばかりに蹴りを放ってきた。


 咄嗟に腕を交差させて防いだものの勢いまでは殺せず、後方へと飛ばされてしまった。


 それでもどうにか体勢を立て直すことに成功すると追撃に備えて身構えていると、背後から何かが飛び出してきて、今まさに僕を斬ろうとしていた相手の頭部に突き刺さったのだ。


 そのおかげで助かったわけだけど、一体何が起こったのだろうか? そう思って飛んできたものの正体を確認すると短剣だった。


 つまりはメイが投げてくれたということになる。


 それに気づいた僕は心の中で感謝しつつ立ち上がると目の前の敵に意識を集中させることにした。




  *




 それから数分後、ようやく決着がついた。


 というのも最後の一匹になったそいつは、僕に斬られたことで命を落とすことになったからだ。


 だから今立っているのは僕とメイだけということになる。


 もっともメイの方はかなり消耗しているようだけどね……まぁ、それも無理のない話だと思う。なにせあれだけの数を相手にしていたわけだしね。むしろよくここまで持ちこたえられたものだと感心するほどだよ。


 そんなことを考えていると彼女が近づいてきて僕の顔を覗き込んできた。


 どうしたのかと思って尋ねようとしたのだけど、その前に抱きしめられてしまうのだった。


「え、えっと……?」


 突然のことに戸惑っていると彼女は言った。


「無事でよかった……」


 それを聞いた瞬間、胸の奥が温かくなるのを感じた。それと同時に目頭が熱くなっていくのがわかったので隠すように彼女の肩に顔を埋めると抱きしめ返した。


 そしてしばらくの間、僕たちは無言のまま抱き合っていたのだった。


 しばらくして気持ちが落ち着いたところで体を離すと改めてメイの顔を見つめる。すると彼女も同じ気持ちだったのだろう、すぐに見つめ返してきたと思ったら顔が近づいてきたので反射的に目を瞑った直後、唇に柔らかいものが触れるのを感じた。


 キスだと気づくのに時間は必要なかった。


 なにしろ何度もされているうちに自然と慣れてしまっていたのだから当然といえば当然のことだろう。


 とはいえ不意打ちを食らうとは思ってなかったので少し驚いたよ……でも嫌じゃなかったから別にいいんだけどね。


 そんなわけで、しばらく唇を重ねていた僕たちはどちらからともなく離れると見つめ合うのだった。するとメイは微笑みながら言った。


「ご主人様、お怪我はありませんか?」


 その問いに僕は頷いた後で答える。


「うん、大丈夫だよ」


 そう言うと安心したのかホッと胸を撫で下ろす仕草を見せる彼女に微笑んだ。


 ゴブリンの死体は地面に埋める。


 ゴブリンの魔石は、ちゃんと回収して、と……。


 森の中へ進んでいく。




  *




 その後、何度か休憩を挟みつつ森の奥深くにまでやってきた僕たちはついに目的地である洞窟の前までやって来たのである。


 なんでもこの洞窟の奥には大昔に作られた地下へと続く階段があるらしいのだが、その入口となる場所がここだという話だ。


 そして、ここから先は何が待ち受けているのか、まったくわからないため慎重に進まなければならないと思った僕は、一度ここで野営をすることにした。


 もちろんその際に見張りを立てて警戒することも忘れないようにしてだ。


 そうして準備を整えた後に夕食を済ませると明日に備えて早めに休むことにした。

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