第12話 僕とメイドは冒険者になる
*
王国から追放されたことにより、他国での新しい生活が始まった。
まずは、冒険者になることにした。
そのために、冒険者ギルドに行って登録することにした。
「あの、すみません……」
受付にいた女性に声をかける。
「あ、はい、なんでしょうか?」
「えっと、僕たち、冒険者になりたいんですけど……」
「わかりました。それではこちらの書類にお名前を書いてください」
そう言われたので渡された紙に記入していく。
そうして書き終えると彼女に渡した。
それを受け取った彼女は確認すると頷いたあとで言った。
「確認しました。こちらがギルドカードになります。身分証明書にもなりますので、なくさないようにしてください」
「わかりました」
「それでは、お二人とも、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
お礼を言うと僕たちはその場を後にする。
それから、二人でクエストボードの前に移動すると、貼られている依頼書に目を通した。
「どれにする?」
「うーん、どれも難しそうなものばかりですね」
「そうだね」
「とりあえず、簡単なものをこなしていきましょう」
「うん」
そう決めて僕たちは掲示板に張られている依頼書を剥がしていった。
*
「はぁ、疲れた」
「そうですね」
僕たちは、薬草採取の依頼を終えて街に戻ってきたところだった。
ちなみに報酬は銀貨一枚と銅貨五枚だった。
少ないけど、これで宿代と食事代が賄えるなら十分だろう。
「今日はここまでにして帰ろうか」
「はい」
そんなわけで僕たちは宿に泊まるのだった。
*
次の日――今日も依頼を受けることにした僕は、昨日と同じ場所で同じように薬草採取の依頼を受けた。
それから森へとやってきた僕たちは、さっそく仕事に取りかかることにする。
今回受けた依頼内容は「アカリ草」の納品というものだった。
それを三つ集めれば達成となるので、それぞれ違う場所に生えているということなので別々に探すことになった。
「じゃあ、見つけたら報告するようにしよう」
「はい!」
というわけで、早速探し始めることにして森の中を進んでいく。
少し進んだところで茂みの中に赤い花が咲いているのが見えた。
どうやらあれが目的のもののようだ。
近寄ってみると、そこには確かに赤く輝く花があった。
僕はそれに手を伸ばすと、茎の部分を持って引き抜く。
意外と簡単に抜けてしまった。
「メイ、あったよ」
声をかけると、少し離れたところから声が返ってきた。
「本当ですか? 今行きますね」
そう言うと彼女がこちらにやってくるのがわかった。
だけどそこで気づいたのだ。
彼女の後ろに魔物がいるということに……。
「――っ!?」
僕は咄嗟に駆け出していた。
メイに向かって走っていくと彼女を突き飛ばすようにして押し倒す。
その直後だった。鋭い爪が振り下ろされたのは……。
間一髪だったと思う。
もし少しでも遅れていたら今頃死んでいたかもしれない。
それほどまでに危険な状況だったと思う。
だからこそ助かったのだと実感できた。
でも、それで終わりではなかったんだ……なぜなら――。
「ごしゅじんさまぁぁぁぁ!!」
悲痛な叫び声が聞こえたかと思うと次の瞬間には体に衝撃が走った。
見ると体に三本の傷ができておりそこから血が流れ出ていたのだ。
それを見た瞬間――視界が真っ赤に染まったような気がした。
そして気づけば僕は叫んでいた。
いや、正確には咆哮していたというべきだろうか……?
とにかく、僕は我を忘れていたのだ。
理性など完全に消え去っていたといっていいだろう。
ただただ目の前にいる敵を殺すことしか頭になかったのである。
そんな僕を正気に戻したのは、ほかでもないメイであった。
彼女は僕の頬にそっと手を添えると微笑んだあとこう言ったのである。
「ご主人様! もう大丈夫ですから! 落ち着いてください! ちゃんと魔物は倒されましたから!」
その声を聞いた瞬間、僕はハッとしたように目を見開いた。
目の前にいたはずの魔物が無残に殺されていることに気づくと同時に、自分が何をしたのかも思い出した。
「あぁ……あぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあああ!!」
僕は絶叫した。
自分の中の理性が崩壊したような気がした。
その後のことはよく覚えていない。
ただ、気がつくと僕はメイに抱きしめられていた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
何度も何度も謝りながら涙を流す彼女を僕は黙って見つめることしかできなかった。
そんな僕に彼女は言った。
「私のせいで……こんな……こんなことに……本当にごめんなさい……」
そう言って泣きじゃくる彼女に僕は何も言えなかった。
いや、言う資格なんてないのだと思った。
だってこれは全部僕のせいだから……僕が弱いせいで招いた結果なのだから……。
だからせめてこれだけは伝えようと思った。
「ごめん……ごめんね……メイ……僕は君を守るって約束したのに……それなのにこの体たらくだ……本当に情けないよね……あはは……」
それを聞いた彼女は驚いたように目を見開くと、首を左右に振った。
「違います! 私がもっとしっかりしていればよかったんです! だから悪いのは私です!!」
必死に訴えてくる彼女に僕は優しく微笑むと言った。
「ありがとう、メイ……でもね、君は悪くないよ。それに、僕も悪かったんだよ。だから気にしないで欲しいな」
「で、ですが――」
それでも納得できないのか言い募ろうとする彼女の言葉を遮るように言う。
「お願いだよ、メイ。これ以上、自分を責めないで……君が傷つくところは見たくないんだ……だからもう、謝らないでくれるかな?」
「わかり……ました」
まだ何か言いたそうだったけど、最終的には頷いてくれた。そんな彼女を見て僕はホッと胸を撫で下ろすのだった。
*
それから僕たちは街へと戻ることにした。
帰り道では特に魔物に襲われることもなく無事に帰ることができた。
ギルドに着くと受付にいる女性に声をかける。
「あの、依頼の報告をしたいんですけどいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。それではカードをお預かりしますね」
そう言われたのでカードを渡すと女性は奥の部屋へと向かっていった。
そうしてしばらくすると戻ってきたので、僕たちが受けた「アカリ草」を納品する。
「これで大丈夫ですか?」
そう聞くと女性は大きく頷いたあとで言った。
「はい、問題ありません。こちらが報酬になりますね」
渡されたお金を受け取ると懐に入れる。
そのあとでメイと一緒にその場を後にした。
*
もう、夜になる。
今日は、宿を取って休むことにしよう……。
そう決めた僕らは適当な宿に入ると部屋を取ることにした。
もちろん部屋は一緒である。
そして食事を済ませて部屋にやってきた僕とメイは、これからどうするか話し合うことになった。
……というのもメイの様子がおかしかったからだ。
なぜかそわそわしていて落ち着きがないというか……そんな感じだった。
どうしたのか聞いてみたんだけど教えてくれなくて困っているところだ。
なのでここは思い切って聞いてみることにする。
「ねぇ、メイ? さっきから落ち着かないみたいだけど、どうかしたの?」
すると、彼女はビクッと体を震わせた後でゆっくりと顔を上げた。
その顔は真っ赤だった。
どうやら恥ずかしかったらしい。
とはいえこのままでは話が進まないと思った僕は、もう一度聞くことにする。
すると、観念したのか彼女は小さくため息を吐いた後で話し始めた。
「……実はですね……その……えっと……い、一緒に寝たいなぁと思いまして……ダメでしょうか……?」
最後の方は尻すぼみになっていたけれど、なんとか聞き取ることはできた。
まぁ、要するにそういうことだろう。
要は添い寝して欲しいということのようだ。
だけど、なぜ今さら、そんなことを言い出したのか、わからない僕は首を傾げるしかなかった。
「え? いつもやっていたことだろう? 今までそんなこと言わなかったのに……」
彼女は恥ずかしそうに顔を俯かせると言った。
「それは、ご主人様のお怪我が心配だったからですよ!」
「あー、なるほど。そういうことか」
どうやら僕の体を心配してのことだったようだ。
確かにあの時負った傷は深かったからね。
そのせいで不安になってしまったのだろう。
そう考えると悪いことをしたと思う。
「大丈夫だよ? もう傷は完全に塞がってるみたいだし、痛みもないから平気だよ? それともそんなにひどい傷だったのかな?」
自分では見えない部分なのでよくわからないのだ。
だけど彼女曰く相当酷い状態だったそうだ。
それを聞いてゾッとした。
もしも傷が残ったりしたらどうしようかと考えたのだ。
だけど幸いにも傷が残ることはなかったようで安心したよ。
そのことを話すと、メイも安心してくれたようだ。
「そうですか……それなら、よかったです」
「うん、心配してくれてありがとう」
お礼を言うと、彼女は笑顔で答えてくれた。
そんなメイの笑顔を見ていると心が癒される気がしたよ。
やっぱり彼女には笑顔が似合うね。
そんなことを考えながら見ていると、彼女が頬を赤く染めながらモジモジし始めた。
どうしたんだろう?
不思議に思っていると彼女は上目遣いになりながら聞いてきた。
「そ、それでどうしましょうか? 一緒に寝ていただけますか?」
その質問に対して僕は頷くことで答えた。
「じゃあ、そろそろ寝ようか?」
そう言って布団に潜り込むと、彼女も慌てて入ってくる。
だけど、その表情はどこか嬉しそうだ。
なんでだろうと思っていると彼女は僕に抱きついてきた。
どうやらくっつきたかっただけみたいだ。
それを見た僕は苦笑しつつも彼女の頭を撫で始める。
すると、気持ちよさそうに目を細めるものだから、思わず笑みがこぼれてしまう。
そのまましばらく撫でていると、やがて小さな寝息が聞こえてきた。
「ふふ、かわいい寝顔だね……」
僕は小さな声で呟くと彼女を抱きしめて目を閉じるのだった。
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