第11話 僕とメイドは王国を追放される
*
翌朝起きると僕の顔を覗き込んでいるメイと目があった。
どうやら起こしに来たようだけど――寝顔を見られていたみたいで少し恥ずかしい気持ちになった。
だから顔を背けてしまうのだけど――そんな僕に構わず声をかけてくる彼女に顔を向けると言った。
すると笑顔でこう言われるのである。
「おはようございます、ご主人様♪」
それに頷いて応えると体を起こして背伸びをした。
そしてベッドから出ると着替えるためにクローゼットに向かったところで声をかけられる。
振り向くと彼女が言った。
「今日は天気が良いですから外で朝食をとりませんか?」
その提案を受け入れて頷くと身支度を整えた後で屋敷の庭に向かうことにした。
メイがパンやサラダなどの料理をテラスに持ってきてくれた。
それをテーブルの上に並べてくれたのを確認すると椅子に座り、いただきますと言ってから食べることにする。
それから黙々と食べている間、ずっと視線を感じていたけど気づかないフリをして食べ続けた。
そうして完食した後で食器を片付けようとすると止められたのでお願いすることにした。
その際に感謝の言葉を口にすると嬉しそうに微笑んでくれるのだった。
それを見て僕は嬉しくなると同時に恥ずかしくなった。
なぜなら、僕もまた、彼女のことを想っているのだと実感できたからである。
だからこそ彼女に対する想いが強くなっていくのを感じたのである。
それはさておき……その後は部屋に戻って出かける準備をしてから屋敷を出た。
そこで待っていたメイと一緒に街へと繰り出した。
まずは服屋に行くことにした。
そして何着か購入して、服をその場で着てサイズを確認した後で屋敷に持ち帰った。
その後も色々な店を回り、必要なものを購入したりしていくうちにあっという間に時間が過ぎていった。
気づけば夕方になっていたので帰ることにした僕たちは馬車に乗って王都を後にした。
行きと同じ道を通りながら外を眺めていると夕日に照らされた景色に感嘆の声を漏らすのだった。
そうして無事に屋敷に到着すると自室に戻り着替えてから食堂に向かって、席に座った。
そして食事を終えると風呂に入ろうと思って席を立ったのだが呼び止められる。
振り返るとメイが微笑んでいるのが見えた。
どうしたのかと思って首を傾げると近づいてきたかと思うと耳元で囁かれる。
「今日もご一緒してもよろしいですか?」
それに対して頷くことで答えると彼女は微笑んだあとで着替えを持ってきてくれた。
それから脱衣所に行くとメイド服を脱いで下着姿になった彼女と目が合う。
思わず目を逸らすとクスッと笑う声が聞こえてきた。
それがなんだか恥ずかしくて頬が熱くなったような気がした。
しかし、ここで恥ずかしがっていてはいけないと思い直して浴室に入るとシャワーを浴びたあと湯船に浸かった。
それから頭を洗うためにシャンプーを手に出して泡立てると髪の間に指を通して洗っていく。
しばらくそうしていると不意に声をかけられた。
顔を上げるとそこにはタオルを持ったメイがいた。
それで体を洗いにきたのがわかったので場所を譲ると後ろに立った彼女は僕の髪を洗い始めた。
その手つきはとても優しく丁寧だったので心地よかった。
なので目を閉じてされるがままになっていると突然、首筋に柔らかいものが触れた。
驚いて目を開けると彼女の顔が間近にあって唇を奪われていたことに気づいた。
しかも舌まで入ってきて絡め取られるように口内を蹂躙されるのだ。
突然のことに頭が真っ白になり思考が停止してしまうほどだった。
だから抵抗することもできずにいるとようやく解放された頃には体に力が入らなくなっていた。
そのせいで倒れそうになったところを支えられた状態で見つめ合っていると今度は唇を重ねられた。
それから舌を入れられて口の中を舐め回されると次第に意識が朦朧としてきて何も考えられなくなっていった。
ただ一つだけわかることがあるとすれば、これがすごく気持ちがいいことだけだ……それしか考えられないほどに蕩けてしまいそうになるほどの快楽に支配されつつあった。
やがて唇が離れると唾液の糸を引きながら離れていき、それと同時に支えを失った体は床に崩れ落ちてしまった。
そんな僕を見下ろす形で立っていたメイは妖しく微笑むとこう言った。
「続きはベッドでしましょうか」
その言葉に僕は黙って頷いた。
*
それから寝室に移動した僕たちはベッドの上に並んで腰掛けるとキスをした。
最初は触れるだけの軽いものだったが徐々に激しくなっていき、最終的には貪るような激しいものになっていった。
互いに求め合い奪い合うような情熱的なキスだったと思う。
とてもいやらしいと思ったし興奮もした。
それは彼女も同じようで息を荒げて頬を上気させていたことからもそのことが窺えた。
そんな彼女を見ていると体が熱くなってきて我慢できなくなった僕は彼女を押し倒した。
そのまま覆い被さるようにして押し倒すと互いの胸が重なり合って潰れていくのがわかる。
だがそれも束の間のことですぐに元の形に戻るのだが、その感触を楽しむ余裕なんてなかった。
今はとにかく目の前の彼女をめちゃくちゃにしたいという衝動に駆られていたのだ。
だから、僕と彼女は本能に身を任せてベッドの上で愛し合った。
*
翌朝――目を覚ますと隣にはメイの姿があった。
昨夜のことを思い出して顔が熱くなるのを感じる。
(夢じゃなかったんだな……)
そんなことを考えていると彼女が目を覚ました。
「おはようございます、ご主人様♪ ……これからも、ずっと一緒ですよね?」
そう言われて嬉しくなった僕は笑顔で頷くと手を握り返すことで、それに応えるのだった。
「うん、ずっと一緒にいよう」
「ありがとうございます! 嬉しいです! 朝食の準備をしてきますね!」
そう言って部屋から出て行ったメイを見送った後で起き上がると服を着替える。
そして食堂に向かうとすでに料理が用意されていた。
それを目にした僕は席に着くと手を合わせてから食べ始める。
すると正面に座ったメイが言った。
「今日から、また学校ですね! 一緒に行きましょう!」
「うん!」
それに頷いて応えるとパンを口に運ぶ。
こうして再び始まった二人の日常に胸を躍らせながら僕たちは食事を楽しんだのだった。
*
しかし、いつまでも平穏な日々は続かない。
これからサマー家は大きな転機を迎えることになるのだが、この時の僕には知るよしもなかったのである。
僕は、もう……貴族ではいられない。
貴族であるサマー家は、あのときの事件が原因となり、没落するのだった。
*
理由は単純明快で、僕とメイがお父様とお母様を地下牢から逃したことがバレてしまったからだ。
お父様とお母様が実は生きていたことも世の中にわかってしまった。
ほかの国に亡命していたことが発見され、事情聴取された。
そして、すべてを話したお父様とお母様は貴族ではなくなり、再び地下牢へ入れられた。
これは僕がおこなったことに対する責任だ。
サマー家は僕が潰してしまった。
そう思ったからこそ、僕は決意したのだ。
僕は、これから、どんな困難なことがあったとしても、諦めない……。
絶対に、生き残ってみせる。
そして、この命がある限り、彼女を……メイを守ってみせる。
それが、僕の生きる意味なのだから……。
「ゴーシュ・ジーン・サマー……王国の地下牢で罪人を逃した罪により……貴族である位を剥奪し、この王国から追放する……!」
王様から追放を命じられた。
正直、僕も地下牢へ入れられてもよかったのだけど、子どもだから見逃された。
その代わり、もう……王国にはいれない。
学校のみんなとも、さよならだ。
屋敷が解体され、執事もサマー家から出ていった。
そして僕は他国へ追放されていく。
その道の途中だったのだが――。
「行きましょう、ご主人様」
「メイ……別についてこなくてもいいんだよ。僕は、もう、ご主人様じゃない」
「わたしが悪いんです。わたしの行動でサマー家は……だから、ご主人様に責任はありません! わたしのせいなんです!」
「そんなことはない。それに同意したのは僕だ。君は何も悪くない」
「ですが、わたしは、ご主人様を愛しています。だから、離れたくないのです」
「ありがとう、嬉しいよ。そうだったね。ずっと一緒だって言ってたもんね」
「はい! だから一緒に生きましょう! ずっと一緒です!」
「わかった。ずっと一緒に生きていこう」
こうして、新たな世界へ僕とメイは歩み始めたのだった。
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