第7話 僕はメイドに嫉妬される
*
二人で街を散策していると、ある雑貨屋の前で立ち止まる。店内を覗いてみるとアクセサリーなどが売られていた。その中の一つに気になる物を見つけた。それはペンダントだった。銀製の台座に宝石が埋め込まれており、その中にハート型の石が入っている。
「きれいですわね……」
隣で見ていたドロワットさんも感嘆の声をあげる。そこで僕は訊ねてみた。
「これが欲しいの?」
すると、彼女は恥ずかしそうに頷いた。それを見て店員を呼ぶと購入する旨を伝える。お金を払うとペンダントを手渡した。
それを受け取った彼女は嬉しそうに微笑む。その様子を見ていると僕も嬉しくなった。すると、不意に視線を感じる。なぜだろう? なんだか嫌な予感がした。
その後、いくつかの店を回り必要な買い物を済ませると屋敷に戻った――。
*
屋敷に戻ると昼食をとることにした。用意してくれたのはメイである。メニューはパンにスープといった簡単なものだったが味はとても美味しかった。特にスープは野菜の甘みが出ていて絶品だった。食事を終えると、食後のお茶を飲みながら話をすることにした。話題はもちろん、ドロワットさんのことについてだ。
「それで、本当の目的を教えてほしいんだけど……」
「……わかりましたわ」
彼女は語り始めた。実は、この国の貴族の間で噂になっていることがあるそうだ。それは、とある名家の跡取り息子が許婚を捨てて他国の令嬢と駆け落ちしたという話だ。当然、この話は公にされていない。なぜなら、それが真実かどうかわからないからだ。ただ、一部の貴族たちの間では有名な話なのだという。
それを聞いて驚いた。まさか自分の知らないところでそんな話が出回っているとは思いもしなかったからだ。しかし、問題はここから先にあるようだった。というのも、貴族の家では後継者問題は非常に重要な課題なのである。そういう話を聞いたドロワットさんは、お父様とお母様がいなくなった僕がドロワットさんとの婚約をどうするか聞くために、この屋敷に来たそうだ。
「でも、そんなことをしたら余計にややこしくなるんじゃ……」
「確かにそうですが、それだけゴーシュ様のことを知りたかったのです」
「…………」
「ですから、わたくしがあなたを守ると決めたのです」
「……そっか」
正直、そこまで想われているとは思っていなかった。正直なところ困惑しているというのが本音なのだが……それでも嬉しいと思う気持ちもあったりするわけで……複雑だった。だけど、一つだけ言えることは――これだけは譲れないということだ。だから僕は言った。
「ありがとう……気持ちはすごく嬉しいよ」
「――っ!?」
「だけど、その答えをすぐに出すことはできない。なぜなら僕は、ドロワットさんのことをよく知らないから……」
「……そう、ですか」
「でも、こんな僕のために屋敷まで来てくれてありがとね」
「……当然です。だって、わたくしたちは婚約者なのですから」
「…………」
いずれ僕は彼女の想いを裏切ることになるだろう。僕の中で複雑な感情が沸き起こった――。
*
午後からはのんびりと過ごしたいところだったのだが、そうもいかなかった。なぜなら、ドロワットさんが僕から離れようとしなかったからである。しかも、やたらとベタベタしてくるのである。そのたびに僕はドキドキさせられてしまう。さらにはメイまで便乗してくっついてくる始末だ。これでは落ち着いていられないではないか!
(まったく……どうしたものかな……)
そんなことを考えているうちに夕方になってしまった。結局、この日は何もできなかったのだった――。
*
翌日――目が覚めると隣にドロワットさんの姿があった。しかも、裸だったのだ。朝から心臓に悪いと思いつつ、彼女を揺り起こす。すると、ゆっくりと瞼を開く。その瞳に僕を映すとニコリと笑った。
「おはようございます、ゴーシュ様♪」
「お、おはよう……」
僕は引きつった笑みを浮かべることしかできなかった……。
*
朝食をとり終えると、彼女は屋敷から出て行った。なんでも学校があるのだとか……。
「それではまた参りますわ」
そう言って去っていく後ろ姿を見送った。姿が見えなくなると大きくため息をつく。すると、背後から声をかけられる。振り返るとそこにはメイが立っていた。
「ご主人様」
「どうしたの?」
「その、言いにくいのですが……」
そう言って彼女は一冊のノートを差し出してきた。受け取って中を開いてみる。そこには「今日の予定」と書かれたページがあり、びっしりと文字が書き込まれていた。その文字を読んでいくにつれて血の気が引いていった……。そこにはこう書かれていたのだ――『ドロワット様がお帰りになるまでイチャイチャする(←重要!!)』『ドロワット様に抱きつかれて赤面する(←ここ重要!!)』『ドロワット様の裸を見る(←絶対に重要!!)』などなど他にも様々なことが書かれているのだった――。
(いったい誰が書いたんだ?)
そう思いながら最後の行を読むと名前が書いてあった――メイと書かれているのだ――つまり、彼女は僕とドロワットさんの関係に嫉妬していたということになる。どうやら僕の行動を逐一メモしていたらしい。
(そんなふうに思っても仕方ないよな……)
僕は愕然としながら彼女を見つめるのだった……。
*
その日の晩、夕食を終えた僕は一人、自室でくつろいでいた。
ちなみにドロワットさんはいない。
ホッとしたのは言うまでもないだろう。
なぜなら、これから起こるであろうことを想像するだけで頭が痛くなったからだ。
そんなことを考えていたら扉がノックされる音が聞こえてきた。
返事をすると扉が開く。
そこにいたのはメイだった。
僕は慌てて立ち上がると、ベッドに腰掛けた。
そして彼女に訊ねる。
「ど、どうしたの?」
「実は、お願いがあって参りました」
「僕にできることなら何でも言ってよ!」
「ありがとうございます♪ それでですね……ドロワット様と仲良くするのはいいんですけど――」
そこで言葉を切ると近づいてくる。
そのまま隣に座ると手を握ってきた。
いきなりのことで驚いていると耳元で囁かれる。
「今夜だけはわたしだけを見てください」
その言葉にドキッとすると同時に胸が高鳴ったのがわかった。
顔が熱くなるのがわかる。
きっと真っ赤になっていることだろう。
それを見られるのが恥ずかしくて顔を背けると、今度は首筋に柔らかい感触が伝わってきた。
それが唇だとわかるまでに時間はかからなかった。
思わず変な声が出てしまったほどだ。
さらに彼女は耳元に口を寄せると言った。
「もっと気持ちよくしてあげますね」
その甘い囁き声に体が震えるのを感じた。
まるで全身が性感帯になったかのように敏感になっている。
そんな彼女の手が服の中に滑り込んでくる。
その手つきはとても優しかった。
ゆっくりとした動きで肌を撫でられていくたびに背筋がゾクゾクした。
やがて手が胸に辿り着くと優しく揉み始める。
その感触に僕は身悶えしてしまう。
次第に呼吸が乱れていった。
すると、メイは耳を舐めてきた。
ぬめっとした舌が耳を這う感覚にゾクリとしたものが背筋を駆け抜ける。
あまりの気持ちよさに意識が飛びそうになるほどだった。
だが、ここでメイは手を止めてしまう。
僕は無意識に不満そうな表情を浮かべていたようだ。
それを見たメイはクスリと笑うと再び手を動かし始めた。
さっきよりも激しくなったその動きに僕は悶絶してしまった。
それからどれくらい時間が経っただろうか……気がつくと僕はベッドの上に横たわっていた。
荒い呼吸を繰り返しているとメイが言った。
「気持ちよかったですか?」
その問いに小さく頷くと、彼女は嬉しそうに微笑んだのだった――。
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