その6
「ラディスローさん」
「なんですか、唯さん」
と、つっけんどんに言うラディスローに、唯は聞いてみた。
「わたし、顔が猫な人をはじめてみたのよ。
わたしの御主人のように猫耳だったり、しっぽのある方はよくみるけど、顔が猫な人は本当にはじめて」
「ほう、確かに私のような顔は、そうはいませんな。
まあ、おかげでこの職業につくのにも、いろいろ苦労がありましたが」
と、ラディスローは自分がフットマンであるということが誇らしい風に、言った。
「へぇ、わたしはそんなこと気にしないんだけどな」
「世の中には気にしている方がおられるのですよ。
それこそたんまりとね」
「猫頭の人は大変なのね」
「そうですよ。おかげさまで、今はこういう仕事が出来てるという点では、彼等に感謝しないでもありませんが」
と、言いながら二人は、使用人ホールに向かって歩いていた。
使用人ホールとは、文字通り使用人の溜まり場で、ご飯を食べたり、仕事の呼び出し前の待機場所として使われていた。
「使用人ホールで、私の手足としていろいろ動いてもらっているやつと合流するのです」
「あら、その方はどんな人なの?」
「将来的には、一流のフットマンか、場合によっては執事になるかもしれないやつなんですが、少々問題がありましてね」
「ええ、どんな問題?」
「手癖が悪くて、ここのような所にしか勤まらないのですよ」
「まあ、その方もドロボウさんなのね」
「蛇の道は蛇と言いますから、今回は私の手伝いをしてもらってます」
「その方のお名前は?」
「ダンドレシー!」
と、使用人ホールに着いたラディスローが呼ぶと、椅子に座っていたラディスローと同じ格好の少年が、弾けるようにこちらに来た。
「わあ、なんですか、ラディスローさん大きな声で」
少年は、黒髪で整った風貌をしており、とてもラディスローが言っていたようには見えない。
しかし、その目だけはいたずら者のそれで、現に今もラディスローに呼ばれてびっくりした風なのに、愉快そうな感じである。
「なんですかじゃあないでしょう、例のゲストを見つけろと言ったじゃないですか」
「ああ、そのことですか」
「そのことって、他になにかやったんですか?」
「いえいえ、別に」
と、鼻に指を擦り付けながら、ダンドレシーと呼ばれた少年は続ける。
「まあ、例のゲストは何処にいるのか、わからないのはたしかなんでね。
見つからないなら、自分から出てもらうことにしたんですよ」
「と、いうと?」
「ようは、燻り出すということですよ。
そこら辺は、マッカーティさんが得意じゃないですか」
「ふむ、確かに」
「こういうのは、あの人に任せた方が、早くすむでしょうよ」
「ちょっと待って!」
と、唯は話を止めて尋ねる。
「その、マッカーティさんというのは、どのような方なの?」
「うん?つうか、こいつ誰です、ラディスローさん」
「ダンドレシー、この方は、新しくゲストに来られたグレアム夫人の侍女の唯といいます。
紹介が遅れましたね、申し訳ありません」
「ああ、そうなんですか」
「それで、唯はなにを聞きたいんです?」
「ああ、すいません。
マッカーティという人はどのような方なの?」
「マッカーティさんは、パーマストン・パークのガーデナーなのです。
元々は、ガルド様のご友人でしたが、そのつてで、パーマストン・パークで働いているのです」
「そうなんだ」
「さて、そろそろ見つかったでしょうから、マッカーティさんの所に行きましょう」
「そんじゃ、僕も行くかな」
「?どちらに」
「そのマッカーティさんに頼まれたことがあってね」
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