その7
さて、こうして裏の方のバイトを終わらせたボクではあるが、ここで予想外の事態が発生する。
「まあ、聞いてくださいよ。こいつがね、パーティに出たいっていうから、こうして男二人してパーティにきてるんですよ。男二人でですよ。貴女みたいな女性でも良いから、いや、そんな否定的な理由に聞こえますが、つまるところ、この無口な相方以外に話す人が欲しかった訳です」
と、ベラベラ喋ってる神経質そうな男と、その横でとくに楽しそうでもないし喋らない白髪の少年を相手にしてしまったがばかりに、2時間くらい(今腕時計を見て時間を計った)話を聞かされるはめにしまったのだ。しかも、まだ続いている。さらにマズイことに、今ボクは尿意をもよおしているのも付け加えとこう。というか、こっちの方がヤバい。このままでは公衆の面前で漏らしてしまう。サバイバルとは、これのことか。
さすがに少年のほうは気づいたらしく、男の裾をギュッと握ってるというかつねっているが、自分の話に夢中な男は気づかない。
「俺一応映画とかドラマの脚本家をやってましてね、スポーツを題材にしたのが出来ないかというのも、このパーティにきた理由なんですよ。(中略。うん、そろそろ無理かな)……それでね、メイドと言えば、昔俺ケイト・ウェブスターの事件という脚本を書いたことがあってね、彼女が自分の女主人を鍋で煮込むって話でしてな。(中略。ボクは内心ジタバタで、我慢も限界)……俺だってね、映画業界に入るキッカケは『風の墓への花冠』とか『月の誘拐』みたいな芸術映画で名を成そうとした訳ですよ。コーカサスのあたりの小説が今ではいわゆるB級映画専科なんですけどね」
「ちょっと、貴方!」
と、怒声がしたので、男とボクはその声がした方へ視線を向ける。
そこには、ドレスアップしたリンカちゃんがいた。そう言えば彼女は今日行われた試合に勝ち、バドミントンの大会で優勝したらしいから、それでいるのだろう。
彼女は続ける。
「貴方の身の上話なんて誰も聞きたくないわ。ほら、彼女も迷惑してるじゃない」
「はあ、それはすまないことをしましたなあ」
男は首を傾げつつ、この場から去っていった。同行していた少年も、リンカちゃんとこちらに向けておわびらしいおじぎをして、後を追いかけた。
「ありがとう」
「ふん、貴女のお陰で優勝したもの、借りは返したわ」
と、リンカちゃんは、プイッとそう言って、他のところへ行く。
……、そう言えばボクも、おしっこがしたいんだった。トイレに行かなきゃ。
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