三節:ものしょうじょ

「はあ、はあ、はあ、はあ……」

 息を荒げて立つ女。

 二人は声も出せずにいた。――否、その異様な姿に対し、返す言葉が見つからなかった。

 まるで大雨にでも打たれたかのように、髪はおろか、白のドレスのような服までもが、びしょびしょに濡れ、何よりも、全身にはあの緑の小さな藻が張り付いていた。

 その姿を大まかに説明するならば、『藻が張った掃除のできてない池に転げ落ち、そのまま這うようにして出てきた』そんな感じの姿だった。

 背丈の高さから二人と比べても少し小さく、歳からも中学生と同じくらいだ。

 突然現れた目的も分からない、その異様な姿をした少女を前に、二人はただそこに立ち尽くしているしかなかった。

 そんな二人の気持ちも知らずに、少女が説明を始める。

「す、すみません。ちょっと争い事がありまして……」

 コホンっと小さく咳をした後、右の髪を払った。

 ベチャっと嫌な音が響き、足元に藻が落ちる。

「始めまして……ええーっと、不運な人達よ。ようこそ、この世界へと……ええー……」

 凛とした表情を見せ、まるで大人のような振る舞いの姿を見せるも、口から出される言葉は、まるで決められた言葉を探すように、チグハグとしたものだった。

 二人は何も言わずに、少女が言い終えるまで待ち続ける。

「えーっと、あなた達はその、不運な出来事により命を亡くしてしまいました。なので、これからは私の為にその命を使わせていただきます。えーっとですので、これから……」

「名前は?」

「あな――ええっ!?」

 突然の麻祁の問い掛けに、少女が驚き、辺りを見渡し始めた。

「わ、私ですか!?」

 少女の言葉に、麻祁が頷く。

「あ、いや、私はですね、あの……」

 突然の事に、少女が戸惑い、少し伏せ目がちに頭を下げた。

 どこか恥ずかしそうな感じで、チラチラと視線を何度も麻祁に向けた後、再びコホンっと咳をして、大人びった雰囲気を出させる。

「私の名前は、クリスタルッムクラルースリムピ――」

 クリスタルと名乗った少女の横を、二人が通り過ぎる。

「ちょっとちょっと!! 待ってくださいよぉ!!!」

 飛ぶようにして、クリスタルが急ぎ二人の前へと回りこんだ。

 前を塞がれた事により、二人は立ち止まる。

「だ、だから言うのは嫌だったんですよ! 長いからどうせ聞いてくれないし! お願いですからどこにも行かないで!!」

 両手を精一杯広げるクリスタルに対し、

「……で、私達に何のよう?」

 麻祁は睨むような目線を返した。

 しかし、クリスタルは怯むことなく、自分のペースでその問い掛けに答える。

「あなた達の命は私が預かりました! だから何処にでも行かないでください!」

「命を預かったとは?」

「死んだんです! ですから、私が――」

 そう言いかけた時、今度は龍麻がその言葉を止めた。

「ちょ、ちょっと待って! 死んだってどう言うことなんだよ!!」

 龍麻の言葉にクリスタルが、

「え? そこから言わないとダメですか?」

すごく呆れたような声で答えた。

「ええ……」

 その急激な変わりように、思わず龍麻が引いた。

「説明が無ければ私達はどうする事も、何かを決める事も出来ない。当然、命を預けることも出来るわけがない」

 麻祁の言葉に、クリスタルがかなり面倒そうな表情を浮かべる。

「説明って……そんな面倒な……」

 二人の耳にもハッキリと聞こえるような声でそう言った後、何かをしばらく考え始め、そして視線だけを二人に動かした。

「……もし、説明すれば納得してくれますか?」

 その言葉に、麻祁は小さく頷いた。

「内容次第だがな。それ以外では私達を動かせない」

「……分かりました。それじゃ説明しますね」

 クリスタルが、ふと溜め息を吐き、そして話を始めた。

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