太陽の希望




むかしむかしのおはなしなのだ。



ある村に太陽が輝いていた。



太陽はその村をいたく気に入っていた。


その村も太陽をいたく気に入っていた。



だから太陽は一年中その村を照らしていた。



おかげで川はきらめき、草花は色めいた。



人々は喜び、太陽に貢ぎ物を贈った。



太陽は喜び、人々に光を届けた。



村は暖かな空気に包まれた。



しかし、ある日天高くの太陽は困っていた。



太陽の光が届かない村の嘆きが見えたのだ。



太陽は申し訳なくなって村に相談した。



「みんな、私には行くべきところがある」



「それはどこですか?」



「西の村だ」



「それじゃあ困ります。うちはどうすれば」



太陽は頭を抱えてしまった。



あちらを立てればこちらが立たぬ。



こちらを立てればあちらが立たぬ。



貢ぎ物の恩も忘れられない。



考えているうちに、太陽は涙が出てきた。



涙は村に降り注ぎ、全てを濡らす。



川は氾濫し、草花は押し流された。



人々も悲しみに明け暮れて太陽を憎んだ。



「疫病神!」「泣き虫!」



ひどい言葉に太陽の涙はすっかり枯れた。



そんな時、ひとりの子供が屋根に登った。



「太陽さん。どうか泣き止んでください」



「とっくに涙は枯れたよ」



「なら、西の村へ。よければ私もお供に」



「どういうことだい?」



「貴方が心置きなく何処までも行けるよう」



「私の使者になろうというのかい?」



「人は人の力で生きていくのです」



その目には確かな意志があった。



「私は人に近づきすぎたのだろうか」



「いえ、人が貴方に近づきすぎたのです」



見れば子供の体もじりじりと焼かれている。



「生贄とは無情な。よし、その提案のんだ」



雨は降り止み、太陽は西に向かった。



「君も私の使者にしよう」



子供の体は太陽を追う火鳥となった。

                 <完>

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