第17話

「……」


伯母に話を詰めるように言われたものの、長も、ファラの父親も黙りこくってしまい、室内は静寂に包まれた。

正直に言って早く話を終わらせてファラのところへ戻りたい。だが、どう話を切り出したものか……。


「お怪我の具合は如何ですか?」

「あ、ああ、大した傷ではなかったからの」


とりあえず、違う話題を切り出してみる。長は一瞬驚いた様子だったが、幾分ホッとした様子で答えた。


「我々の到着がもう少し早ければと悔やんでおります」

「いや、此度のことは我々の落ち度からくるものです。アイシャ様解放の知らせを受けて、少し油断しておりました」


毎日ではなかったが、このひと月余りの間ザイドはファラをよこせとしつこく言い寄ってきていた。最初の頃は従兄弟達が応対しても引き下がっていたが、ここ数日は長が出なければ対処しきれなくなっていたらしい。昨日もいつも通り対応しようと出向いたところで伏兵の襲撃にあってしまったと言う。


「ザイドは我々の動きに気づいていたのか?」


ちらりと背後に控えるバースィルに視線を向けると、彼は緩やかに首を振った。


「当人から聞けたのは罵詈雑言ばかりでまだはっきりとは分かっておりませんが、アルマースの私兵達の聴収結果によると気付いてはいなかったようです。強硬策に出る決断をしたのもこの数日の間だったそうです」


我々の決起と焦れた奴の行動はたまたま重なってしまったらしい。反省すべき点は多々あるが、もう済んだことをこれ以上悔やんでも話は進まない。お互いにそう結論付けて今度こそ本題に踏み込んだ。


「ファラは私と共に歩む道を選んでくれました。ジャルディードの方々にも快く送り出していただけたらと思っております」


私が頭を下げると、2人は顔を顰めたまま微動だにしない。


「陛下、一つお尋ねしてよろしいか?」

「何なりと」

「おそらく、これから各貴族は陛下に取り入ろうと多くの令嬢を送り込んでくるはずです。娘は……ファラはどのような立ち位置に置かれるつもりか?」


2人は真っすぐに私を見ている。見目の良い令嬢を後宮に送り込めば、若い皇帝を篭絡するのはたやすいと考える者は少なからずいるだろう。彼らの懸念はもっともだろうが、私はファラ以外を娶るつもりはなかった。


「後宮は廃止するつもりです。建物も解体し、その資材は新たに建設する救護院や学問所に活用するつもりです」

「本気で言っておられるのか?」

「お父上もそれをやろうとして貴族達の反発を招いたのですぞ?」


私の返答に2人は息をのむ。


「ええ。重々承知しております。ですが、その中心となっておりましたアルマースは既にありません。同調していた貴族達もその多くは力を失うことになります。変えるとしたら今ではないかと思うのです。私の妻はファラ1人だけです」


2人を見据えてそう答えると、彼らは重々しく頷いた。

「陛下のお覚悟は重々承知した。しかし、あの子を嫁がせるとなると、それなりの猶予が必要じゃ」

「もちろんです」

「半年ほど猶予を頂こう。あの子のために最高の輿入れ行列を用意しよう」

「分かりました」


これで話はまとまった。私達は固く握手を交わして会談を終えた。

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