第14話
「さっきも言った通り、私は微妙な立場にいた。それでも君を妻に迎えたくて、思い切って長殿に申し込んだんだ」
「3年前に?」
ファラは首をかしげている。自分がモテるとは露ほども思っていないので、そんな反応なのだろう。だが、私は知っている。あのザイドがわざわざジャルディードにまで来てファラにちょっかいを出していたのは、彼女の気を引こうとしていたからだ。そうでなければ、わざわざ勅命を
カリムはザイドとファラを婚姻させる勅命に覚えはないとはっきり否定している。なぜなら、そういった公文書は彼の配下にある
ファラを狙っていたのはザイドだけではない。彼女と行動を共にしていた幼馴染達もほのかに思いを寄せていた奴を何人も知っている。
「ジャルディードを味方に付けておこうと思ったとか?」
「あのね、あの時点で既に7年も住んでいるんだよ。そんな事をしなくても彼らの事は信用している。逆にそれが目的で申し込んでいたら私は叩き出されていたよ」
本人に自覚はないが、ファラはジャルディード家の宝である。家族がどれだけ彼女の事を大切に思っているか、私はここに着いた初日に思い知らされたのだ。
「家庭教師を引き受けた当初から綺麗な子だと思っていた。その頃はまだ身内としての感情しかなかったけれど、3年前、その頃から急に大人びて来た君を眩しく思い始めた。
「嘘……」
「ジャルディードの姫君には方々から縁談が数多く寄せられていた。それを聞いて居ても立ってもいられなくて玉砕覚悟でファラを妻に迎えたいと申し込んだ」
ファラは自分に縁談が来ていたことは全く知らない様子だった。彼女を溺愛する父や祖父がすべて断ったのだから当然か。
私は家庭教師という己の立場を利用し、いずれ都に招くことになる彼女に困らないだけの礼儀作法を教え込んでいた。同じ服装をし、見本を見せることで彼女は都の貴婦人にも劣らない作法を身に着けている。
「この国の優良な軍馬の大半はこのジャルディードで生まれている。軍部を中心に懇意にしておこうと考えるのは当然だろう。けれども、ここでは政略結婚を良しとはしない。しかも君はこの家の宝だ。当然、好きあった人物と結婚してもらいたいと皆思っていたんだろう。
だから当時、私も長殿に言われたよ。ファラが成人した折に改めて申し込んでくれと。それで君が了承すれば、我らは認めると」
実際には「師の立場を利用してファラに迫ったら即刻たたき出すからな」などと過激な言葉が添えられていた。勢いに押され、神妙に頷いたのは言うまでもない。
「帝都に戻れば私は帝位につく。まだ完全に落ち着いてないから、君を宮城に連れて行けば命の危険もあると思う。それにあそこは窮屈なばかりで君には苦労をかけるかもしれない。それでも傍に居て欲しいと思う気持ちは日に日に強くなっている」
私は立ち上がると、ファラの前に跪いた。
「ファラ、改めて申し込みたい。私の妻になってくれませんか?」
「はい」
あっさりとした了承に、私は逆に驚いてファラの顔を見上げる。
「あのね、従兄様がいないと何をしてもつまらなかった。でも、逆に嫌なことでも従兄様が一緒なら何でもできそうな気がするの。
一ヶ月の間だったけど離れていて分かったの。私、従兄様の事が好き……」
「ファラ……」
私は思わずファラを抱きしめた。その思いは同じだった。ファラと目が合うと、自然と唇を重ねていた。そしてついばむような口づけを幾度か繰り返したのち、私はファラを抱き上げた。
「いいか?」
私の問いにファラは頬を染めて小さく頷いた。私は高ぶる気持ちを抑えつつ、奥の寝室へと足を向けた。
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