第13話

「叔父は後宮で酒浸りとなっていた。後から聞き出した話に寄ると、私達に冤罪えんざいを着せた呵責に耐えかねた叔父は心身ともに病んでいたらしい。私の姿を見た叔父は半狂乱で泣きわめき、もう正気を失っていた」


私はどうやら難しい表情を浮かべていたらしい。ファラが眉間みけんにそっと触れてくるので、少し気分が和らいだ。


「問題の解決を長殿に報告しようとジャルディードへ向かっている途中で更なる問題が起きた。

アルマースの身内の一部が領内の城に立てこもり、私達の行く手を阻んだ。武力で平定するのはたやすかったが、それはあくまで最終手段のつもりだった。

説得を試みている間にザイドが私兵を率いてジャルディードに向かったと情報が入った。奴は私兵の大半を引き連れて行った。私は迷うことなく最終手段をとり、ジャルディードに向かったんだ」

「それで助かったのね」

躊躇ちゅうちょせずに最初からしていれば君に痛い思いもさせずに済んだのにね。ごめんね」


間に合ったからよかったものの、ザイドの不在にもう少し早く気づいていればジャルディードの長や従兄弟達も怪我をせずに済んだ。そして何より、ファラも足を痛めずに済んだのだ。


「でも、従兄様が来てくれたからみんな助かったのよ」

「そう言ってくれると気が楽になるよ」


ファラは私を見上げている。以前と変わらないその視線を向けてくる彼女に私は恐る恐る訪ねてみる。


「皇子であること、黙っていたのを怒っていないか?」

「ちゃんと理由を教えてくれたわ。それに命がかかっていたのでしょう?」

「確かにそうだけど……」


あっけらかんとしたファラの答えに思わず力が抜ける。この10年の間の絆が実を結んだと喜ぶべきなのかもしれないが、なんだか肩透かしをくらった気分だ。


「従兄様がいない間、色々考えたの。従兄様は一体何者だろうって。よくよく思い出したら母様や兄様達は気さくに話していたけど、お祖父様や父様は一目おいてる感じだったし。私の家庭教師として雇われているにしては召使もいっぱいいて優雅に暮らしていたし。本当は身分の高い人なのかなぁって思っていたわ。まさか皇子様だとは思わなかったけど……」


確かにファラの他の家族には彼が皇子であることを打ち明けていた。周囲の目があるので、お互いに了承したうえで自然に振る舞っていたつもりだったが、間近で接していたのでその違いがわかってしまったらしい。

ちなみに彼女だけ知らなかったのは、ここへ来た時にはまだ子供だったからだ。彼女が成人し、折を見て打ち明けるつもりだったのだが、事態が早く動いてしまったために後になってしまったのだ。


「ねえ、従兄様」

「何だい?」

「お祖父様が言っていた3年前って……」


都に向かう前、発端となった騒動の話し合いの折に出てきた長との会話が気になっていたらしい。


「それは……だね」


急にその話を振られて思わず狼狽えた。正直言って気恥ずかしい。それでも適当に話を濁しても今の彼女はごまかされないだろう。軽く咳払いをして気持ちを落ち着けると、正直に話そうと腹を括った。

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