第27話 エピローグ ② 『世界大会決勝』

『さあっ! 今年も始まりました、全世界・最強魔法使い決定戦!!』


『その決勝戦が、もう間もなく始まろうとしております!』


『実況は引き続きわたくし――三池みいけ 鐘子かねこがお送りいたしますっ!』


『魔法使い……。 それは現在大気に満ちている未知のエネルギー……通称マナを体内に取り込むことで常識では起こりえない超常現象を引き起こせる、そんな者達の総称……』


『そんな魔法使い達が地上に現れてから数年……。 研究者の間でマナの研究が世界各地で進み、いずれは枯渇すると思われていたマナの総量は魔法使い同士との干渉……すなわちバトルをすることでそのマナが増加していくことが判明』


『その結果、魔法使い同士の大会は世界中全ての国で実施されており、現在もマナの総量が増え続けている状態です』


『そんな中、特に注目されてるこの世界大会の決勝……』


『そしてそれは、事前の予想通り――この二人の、日本人同士の戦いとなりました!』


『マナの分析能力を持つ魔法使いと、それを数値化させる魔道具。 それによって初めて計測することが可能となった魔法使いの強さの指針ともえいる、個人のマナの貯蓄量……』


『その言い方は国や地域によって様々ですが、今では魔力という名称で広く一般に知れ渡っておりますっ』


『ハッキリ言って今の時代、魔力さえあれば大抵のことが何でもできてしまうため、その資産価値はある意味貨幣より高いと言ってもいでしょうっ!』


『そんな――ある意味、力の象徴とも呼べる魔力の総量……』


『そして、そんな個人魔力を数値化させた世界ランキングリストが~……――こちら!』


『――――』


 そのタイミングで映像が切り替わり、表示されたのは一覧のランキング表。


『一般の保持魔力が500前後。 訓練を積んだ魔法使いが五千から一万とされることを理解された上で、この内容をご覧下さい』


『トップ20~50までの間に10万から30万以上の猛者がゴロゴロする中で、それがトップ10以内ともなるとその数値は、なんと脅威の100万超え!』


『その中でも第三位のシャイン・クラウス――総魔力300万!!』


『そして世界第二位! 日本代表――山井出 勝希選手の魔力数値、それが~……』


『――145億』


『そして、さらにさらに! それを超える同じ日本代表――世界No.1の山井出 千夏選手の保持魔力……――548億』


『この数値が山井出姉妹の魔力となります!!』


『―――~~~~~~っ!!!!』


 会場内で沸き上がる大歓声。


『これは果たして山井出姉妹が強過ぎるのか、それ以外の全員が弱過ぎるのか、それは定かではありませんが、ただこれだけは間違いなく言えます』


『ほぼ山井出 千夏選手の一人勝ちで決まりのような世界大会ですが、それでもこの戦いで山井出 千夏選手に勝てる可能性があるのは世界でただ一人……山井出 勝希選手のみだと!』


『え~っと……ちなみにこの戦いの前、山井出姉妹の中である約束事をしている、との情報が入ってきてます』


『――え~っと。 何でも、この試合に勝った方は、負けた方に自分の隠し事をひとつ打ち明ける――とのことです』


『……ん?』


『あれ? 勝った方、が? 逆じゃなく? ――っていうかお前ら、こんなの家でやれっ!』


『――ですが……こんな姉妹ゲンカ(?)に、全世界が注目しています』


『この放送は全世界にライブ中継されており、現在の視聴率は脅威の90%超え!』


『そして……その戦いの火蓋が~……――今! 切って落とされました!!』


「――――」


「――――」


 始まった……っ! まずは……――って! いきなりっ!?


「――――」


 試合開始直後――見えたのは、上段の構えからいきなり竹刀を振り下ろす寸前のお姉ちゃんの姿――。


「―――っ!!」


 『遠当て』を使える以上、お姉ちゃんにとって距離はあって無いのと同じ。


 だから、その場での単なる打ち込みも直線上の外――真横へと緊急回避する。


 今のが単なる素振りやフェイントだったとしても、それはそれで構わない。


 何せ、相手はあのお姉ちゃんだ。


 警戒し過ぎて損ということだけは絶対にない。


 と、そんな具合に私が熟考じゅっこうしていた際――。


『――――』


「―――っ」


 ズガンッ! と、まるで何かが砕けたような破壊音が聞こえ、とっさに視線をそこへ――。


「――――」


 ――見ると、姉がさきほどまで手にしていた竹刀を、会場の石床に突き立てていて……。


「――………っ」


 い、石床に竹刀を……って、今さら『その程度』で驚いてる場合じゃなく――。


 竹刀を、手放した……?


 確かに、お姉ちゃんは素手でも充分強い……けど。 それでもやっぱり竹刀を持っている時の方がずっと強い。


 それなのに、試合が開始されてすぐに竹刀を手放した、その理由がわからない。


「――………」


 それでも決して油断をせず、お姉ちゃんとの間合いを慎重にはかっていく私。


 そうして、油断はしない……ながらも、変に警戒し、動けなくなってしまっていた。


 そこに――。


「――――」


 風で揺れる自身の横髪が、時折視界に入ってくる。


「―――っ」


 そんな風がさらに強まり続け、やがて強風へ――。


「――――」


 その時点で、ようやく感じ取った違和感。


 ここの会場は確かに屋外だけど、観客席との間に張りめぐらされた防御結界は、普通の壁のように風も遮断するはず。


 だったら、この風は一体どこから――。


「――――」


 そう思った瞬間、向けられた視線――それは、試合開始直後に石床に突き立てられていたあの竹刀。


「―――っ」


 気付いた時にはもう手遅れ。


 ついさっきまで、ほんの強風程度だった風がそこから爆発的に強まり、暴風をまとった突風へ。


「―――っ!!」


 とっさにその場で踏みとどまろうとした足が身体ごと宙に浮き、あの竹刀のもとまで一気に吸い寄せられていく――。


「――――」


 そこで見えたのは、徒手空拳で構えていたお姉ちゃんの姿。


「―――っ!!!」


 ――ヤバッ!!


「――――」


 とっさになって私が身構えた瞬間、すでに姉の手が胸元まで伸び……そこに触れようとしている寸前、で――。


「――――」


「――――」


『――セブーン……エイトー……』


「―――っ!!」


 聞いたと同時、ほとんど反射のようにバッ! と起き上がり、そこからすぐに竹刀だって構えてみせた。


「―――っ」


 瞬間、グラリとなって揺れた視界。


 どうやら……姉から『何か』を受けた私はそれで意識を失い、しばらくのあいだ完全にダウンしていたようだった。


「………っ」


 さっきの……あの瞬間――。


 姉の攻撃をまともに受けてしまった私だったけど、ほとんど無意識下で自分に発動させた『手当て』がどうにか間に合い、それによって何とかこうしてギリギリで起き上がれた。


 まぁ……それだって、私が実際に何の攻撃を受けたすらわかっていないから、おそらく――としか言えないけど。


「――――」


 今の……。


 私の『手当て』がたまたま発動していなかったら、それだけで試合が終わってた……。


 時間にして、ほんの1分未満。


 お姉ちゃん……。 いつもだったら余裕を持って考えてる試合の流れとか、観客の盛り上がり具合とか、そんなの一切考えてない……。


 本気だ……。


 今……ここには、本気になった『山井出やまいで 千夏ちか』が目の前いるんだ……っ!


「――――」


 ブルッとなって全身が身震いし、思わず口の端がつり上がってしまう。


「――………」


 そして、それと同時にふと思い返されてしまうのは、ついこの間のこと――。


 いつの間にか、気付いた時には見えていたあの白い糸……。


 そして、この糸が人の心を自由に操れることを知った……。


「………っ」


 ――私って最低だ……。


 お姉ちゃんの気持ちを無視して、自分の欲望に従うまま……お姉ちゃんに――あんな取り返しのつかないことをしてしまった……。


「――……~~~~っ!」


 カァーッと、胸の奥の中心と――それ以上に顔が熱くなってしまう。


「……―――っ」


 謝らなきゃ……。 自分のしてしまった過ちと、この力の秘密をちゃんとお姉ちゃんに伝えて……。


 その上で、ちゃんと……っ! 今度こそ何の力にも頼らないで、本当の自分の気持ちをあらためてお姉ちゃんに伝えるんだ……っ!


 それで、ようやく――。


「――――」


「――――」


 あれから……10カウント寸前までダウンしてたかっきちゃんが急きょ起き上がって構え、全く衰えることない強い闘志の宿った瞳を私に向けてきてる……。


「………」


 そんなかっきちゃんから決して目を離さず、隙のない構えを崩さないまま――私は心の内で広がる動揺と、驚きの感情を表情に出さないようにするだけでせいいっぱいだった……。


 今ので、決まらないだなんて……。


 本当に……本当に、強くなったね……。 かっきちゃん……。


「――――」


 さっきのは、かっきちゃんに前もって対策されないよう、ここで初めて見せた新技。


 試合開始直後、私のすぐ目の前で発動させたのは――『風穴ふうけつ』。


 それは、初級魔法の『風』をベースとしながらも、『剣牢獄』や『重ね十字』の溜めの力を逆に応用――そこから発展させて組み合わせた、私のオリジナル。


 その効果によって、地面に突き立てた竹刀を中心に、まるでそこがブラックホールになってしまったかのような吸引現象を引き起こさせた。


 けど、これは単にかっきちゃんの身体を近くに引き寄せて体勢を崩すためだけに放った、いわば前準備。


 本命は、その次――。


「――――」


 『風穴』によって引き寄せられ、宙に浮いてしまっていたかっきちゃんの胸元へ、自然と伸びていく私の手――。


 私はこれに、『全て』を込めた。


 私のこれまでの戦闘経験、実体験してきた死の世界、五感が戻った際の衝撃、糸の存在、疾風迅雷の動き、感情の操作――。


 それによって生じる、ありとあらゆるエネルギーや衝撃、技術、経験……その全てを、この右手に――。


 手のひらや、拳でもまだ広い。


 指や、指先でもまだ――。


 今の……私の全ては――。


 人差し指の先の先――。


 この、一点に――!


「――――」


「―――っ!!!」


「――――」


「――――」


 そんな……収束させた『風穴』のエネルギーすらもまとめて取り込んで放ったのは――『点雷てんらい』。


 その全エネルギーはかっきちゃんの意識を刈り取るためだけに作用し、事実そうなった。


 それ、なのに――。


 私のその集大成が、かっきちゃんがギリギリで発動させた『手当て』によって、全てひっくり返されてしまった。


「~~~~っ!」


 こうしてかっきちゃんがここまで強くなってくれたことは、まるで自分のことのようにすっごく嬉しい――。


 それから……あの日のことだって、もちろん……。


「――………」


 けれど、それなのにどうしても冷たいモノになってしまう私の瞳……。


 ゴメンね……。 かっきちゃんは多分、自分の気持ちが暴走して、抑え切れなくなって――それであんなことしちゃったって……きっとそう思ってるだろうけど、事実は違うの……。


 あれは嘘……。 かっきちゃんの欲望も、感情も――その行動さえも……前に私がかっきちゃんに植えつけてしまった、嘘の想い……。


 かっきちゃんに勝って、全て話そう……。


 そして……そうした後で――。


 かっきちゃんにちゃんと『お別れ』して、出ていかなきゃ……。


「――――」


 かっきちゃん……お願いだからもう立たないで……。


 さっきので充分わかった……。 今のかっきちゃんを無力化させるとするなら、まず最初に『手当て』……それからどうにかしないと……。


 そのために、かっきちゃんの両腕をまともに動かなくなるまで徹底的に痛めつけ、その上で意識を奪い、昏倒させる……。


「――………っ」


 そんな想像をしただけで、不意に吐き気が込み上げ、心臓が締めつけられたようになってしまう。


 けど――。


 ゴメン……ゴメンね……。 今日の私はどうしても勝たなくちゃいけないの……。 させたケガだって、試合が終わったら絶対すぐに治すから……っ。


 だからせめて、今の私の全力をぶつけて1分でも――1秒でも早くこの戦いを終わらせる……。 そのために……っ!


「――――」


 初級魔法の『水』や『風』程度じゃダメ。


 だったら、上級の――『火』と『土』。


 それに、下の世界でずっと見てきた……あの『濁流』とを組み合わせた――。


「―――っ」


「――――」


 ――『濁炎竜だくえんりゅう』。


 その体内に、石床の瓦礫という濁を宿した火炎の竜――それが同時に二体。


「―――っ!」


 それらを左右に別れて展開させ、後方の死角からそれぞれ――かっきちゃんの両腕に狙いを定め、襲い掛からせた!


「――――」


「―――っ!!」


 一刀!?


 今の私の最大威力とも呼べる魔法が、その場から数歩身を引いたかっきちゃんのたったひと振りによって二体同時に斬り裂かれた。


 それだけでなく――。


「……―――っ!」


 とっさに目の前に張った『風の壁』が、衝撃を受け――粉々に砕け散った。


「………」


 今の……。 私の『濁炎竜』を一刀のもと斬り伏せた、かっきちゃんの一撃……。


 続けて――その余波が『遠当て』となって、ここまで届いた……?


「――~~~~っ!」


 これ……私の『点雷』が、『手当て』でしのがれた時にも思った。


 これは私のつみで、ばつ……。 こんな気持ち……絶対なったらダメなのに……!


「~~~~っ!!」


 ドクッドクッと、鼓動が高まり続けてて高揚する……ワクワクする心が全然止まらず、笑みまでもが勝手に……っ!


「――――」


「――――」


「――はぁ……はぁ……はぁ……」


「―――っ」


 乱れていた呼吸を整えていた勝希がゴクリと息を呑み、片手に持った竹刀の切っ先を相手に向けたままで口を開く。


「ねぇ……そんな――剣でも何でもない、単なる普通の魔法が私に通じると思った? バカにしないで」


「―――っ」


 そんな余裕と自信のある勝希の言動を受け、千夏から明らかに見て取れた動揺の表情。


 そのじつ、勝希の内心は――。


 ――嘘。


 う、腕がプルプルする~……っ!


 な、何なの~っ! 今の見たこともない、バカみたいに魔力の込められてた異常な威力の魔法は~~っ!!


 しかも、あれだけ高密度な魔法をふたつ同時、それもノーモーションで!?


 どうにかしのげたさっきの動きだって、ほとんど本能に近いような感じで、自分がどう動いたのかすらもわかってないし、この右腕だってすぐに『手当て』しないと一合だって持たない……っ。


 状況は最悪……。 けれど、『これから』のことを想うと次々と笑みがこぼれ出て、いくらでも内から力が湧き上がってくる……っ!


 だから――。


「お姉ちゃん。 今の私、きっと――神より強いよ……っ!」


 そう言い終え、口の端を上げた勝希が勝気な笑みを見せ、構えてみせると――。


「~~~~っ!!」


「―――っ!!」


 そんな言動を見て感極まった千夏が、『風穴』で粉微塵にさせてしまった竹刀を、右手に復元収束させながら距離を詰め、勝希に向かっていった!

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