第245話

 ◆ ★ ◆


 何もしてないし、何も出来てないのに、またヒデちゃんからが送られてきた。


 今日はこれで二回目。

 ヒデちゃん、無事にドラゴンに勝てたんだね。

 凄いよ、ほんと。


 さっきなんて、横に居たエネアがビクッと震えたかと思ったら、みるみる間に大きくなっていくのを見ちゃった。

 文字通り……ってヤツ。

 ランドセルが似合いそうな見た目から、あっという間に美人なお姉さんに成長するんだもん。

 ……思わず見とれちゃった。

 マチルダも沙奈良ちゃんも、ビックリしてたけど2人から感じる魔力もグンって伸びたのが分かるぐらいだったし、たぶん2人から見たら私もそうなんだろうな。


 ◆


 ……ねぇ、ヒデちゃん達はいったい何してるの?


 さっき私達が攻略したダンジョンがすごく水場の多いダンジョンだったから、代わる代わるマジックアイテムのドライヤーで髪の毛を乾かしているところだった。

 魔石で動く、魔法のドライヤー。

 みんなの髪の毛がすぐに乾いていく。

 そんな短時間の間にも、何回も何回も力が送られてくる。


 ダンジョンを攻略してる間もそうだったけど、今のが一番すごかった。

 立て続けに送られてきた魔力が、私達の中身を次々に造り変えていくのが分かるぐらいに……。


「ちょっと……アイ、これどういうこと?」


 マチルダも戸惑っているみたい。

 エネアは呆れたように首を横に振っている。

 沙奈良ちゃんもビックリしたのか、ドライヤーを落としそうになっていた。

 目もまん丸。


「私に聞かれても分かんないよ。ドラゴンの群れでも倒してるのかなぁ?」


「ヒデさん……また無理してないと良いんですけどね」


「……今はもう、無理してないんじゃない? また戦いながら楽しそうにしていると思うわよ」


 あり得そう……。

 ヒデちゃん、夢中になると集中力がスゴいからなぁ。

 何かに没頭してると何も聞こえてないんじゃないかな、って時がたくさんあった。


「私達も負けてらんないね」


 そう私が言うと、みんなが無言のままうなずいてくれた。



 次の目的地はすぐ隣の地域。

 ギリギリ、ダンジョン同士の支配エリアが重なってないけど、急げばそんなに掛からないよね。

 魔法は得意だけど武器で戦うのが苦手な沙奈良ちゃんは、私達が早歩きすると軽く駆け足になっちゃうから、いつもは沙奈良ちゃんに合わせて移動してるんだけど……当の沙奈良ちゃんがダッシュで次の目的地に向かっているからには、私達もそれに合わせて軽く走ることになっちゃった。

 これでスタミナが全然、切れないんだもんなぁ……私達、平和になってから普通に暮らせるのかな?

 そもそも平和になるかどうかも分かんないんだけど。


「アイ、来たよ!」


 マチルダがモンスターに気付く。

 いつも一番はマチルダ。

 オオカミの格好になんなくても、普通の人より目も耳も、ついでに鼻も良いみたい。


 レッドキャップって言ったかな?

 もとは妖精さんらしいのに、全然可愛くない。

 それが……えっと7人。

 出てきたそばから消えてっちゃうから、よくわかんないけど。


「必要だからしていることだったのだけど……もう、あまり意味のあることにも思えなくなってきたわね」


「ほんとだね~。でも、おうちで壮ちゃん達と遊んだり、お料理してヒデちゃんの帰りを待ってるだけじゃいられないもの」


 きっとエネアの言うとおり。

 今さらダンジョンをいくつかクリアしても、あんまり意味は無いのかもしれない。

 でも……


「本当……そういうわけにもいかないですよね」


「うん、そういうわけにはいかないよ」


 沙奈良ちゃんにしても、マチルダにしても、次々に出てくる色んな種類のモンスターを次々にやっつけていく手は止めない。

 それはエネアも私もおんなじ。

 少しでも役に立ちたいし、少しでも差を縮めたいもの。

 なんだかまた、だんだん差が広がっているようにしか思えないけど……。


「ん? アイ、あれおかしくない? あそこ」


 マチルダの指差す先……モンスターが出てくる黒い渦。

 それが3つ。

 少し離れたところに現れた渦同士がなんだか近付いていっているように見える。


 気のせい……じゃ、ないみたい。


 渦と渦とがくっついて、さっきまでより嫌な気配になっている。

 また、くっついた。

 そしてもっと嫌な気配が強くなっていく。

 次の瞬間、合体して大きくなった渦から生まれたモンスターは、今までに私が見たことのない種類のモンスターだった。


「地竜? まさか……何で、こんなところに?」


 エネアが驚くのも無理はないと思う。

 あれはまさか……


「亜衣さん、あれ……グランドドラゴンじゃないですか? イレギュラー? 何で? 私……私、観えなかったのに!」


 ……沙奈良ちゃん?

 なぜかは分からないけど、沙奈良ちゃんはひどく困惑しているようにみえる。

 マチルダも、さっまでより明らかに厳しい表情に変わったと思う。


「……アイ? アイ! 来るわよ!」


 私がハッと気付いた時にはもう、グランドドラゴンはこちらに向けて突進を開始していた。


 速い!


「みんな! かわして!」


 エネアは魔法を放って攻撃を開始していたけど、グランドドラゴンのスピードは変わらなかった。

 私もエネアに声を掛けてもらったおかげで、余裕をもってかわせたけど、沙奈良ちゃんが動けていない。


「サナラ! もう!」


 マチルダが沙奈良ちゃんをお姫様だっこして、思い切りジャンプする。

 そのギリギリ下を通過していくグランドドラゴン。

 私もエネアも魔法で攻撃を続けているのだけど、グランドドラゴンはなんだか異常に固いみたいで、あんまり魔法が効いてるみたいにはみえなかった。


 絶対これイレギュラーってヤツだよね。


 ……私達だけで勝てるのかなぁ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る