第102話

 元の道へと戻ったオレだったがよくよく見ればこの道の方が、先ほどジャイアントロックイミテーターらが居た道と比べて広く造られていることに気付いた。


 ……もしかしたらこちらが本道で残りは枝道なのではないだろうか?


 もちろん根拠らしい根拠では無いので、そうした可能性を考慮しながら探索を進めてみよう……ぐらいの話だ。


 少し進むとまたも右側に枝道が有った。


 不自然な岩が転がっていたりはしないが突き当たりに先ほどより少し小さな扉が見える。

 先ほどの扉は結局ドアイミテーターだったわけなのだが……。


 せっかく誰も足を踏み入れたことの無い第6層に来たのに、少し物足りない気持ちでいたのも事実だ。

 見つけた扉を開けに少し早足で接近していく。

 またドアイミテーターの可能性も勿論有る訳だが、あつものに懲りてなますを吹くことになるというのも面白くない。

 今までのように鉄球を投擲したり魔法を放つことは、先制攻撃にはなるもののモンスターであるかどうかの判別にはなっていないので、今回は敢えてせずに近付いていく。

 今回はドアノブを握った段階でも【危機察知】や【罠解除】が何の反応も見せないことから、恐らくは本当にただのドアなのだろう。

 結局のところ思い切り開けても何事も起きなかったので、いわゆる結果オーライというヤツだ。


 一応は中に入る前に眼を凝らしてゼラチナス・キューブが罠を張っているどうかも確認するが、特にそんなことも無かったので中を確認していくことにした。

 部屋の中にも何故か不自然な壁……思い切ってペタペタ触ってみるが、どうやら本当にただの壁だった様だ。

 邪魔な壁を避けて歩き壁の向こう側を覗き込むと、そこにはやたら大きな宝箱と極めて小さな宝箱が並んで置かれていた。


 今まで宝箱が同じ部屋に複数個置いてあるようなことは無かったため、嬉しく思う気持ちと同時に怪しむ気持ちも湧いてくる。

 まずは小さい方の宝箱……指輪だ。

 見たことの無い指輪だったため【鑑定】してみたいところだが、ここは大きな宝箱を開けてからにするとしよう。

 宝箱の留め具に手を掛けようとしたその時、不意に【危機察知】が特大の警報を鳴らした!


 パッと飛び退きスキルが教えてくれた危険の正体を確かめると、野太い腕がパッカリ開いた宝箱から生えていて先ほどまでオレが居た場所に掴み掛かろうとしているところだった。

 ……後少しでも反応が遅れていた場合、もしやオレはあの宝箱の中に引きずり込まれていたのだろうか?


 モンスターであることを確認してすぐ……咄嗟に野太い腕に対してワールウインドを放つが鋭く吹き渡った旋風の魔法にも、宝箱から生えた気持ちの悪い腕は大して応えた様子も見えなかった。

 親指の位置からすれば右の腕ではあるようだが、左腕は見当たらないどころか右腕が生えている位置は宝箱のちょうど真ん中辺りだ。

 一本腕の宝箱に擬態するモンスターと言えば……それはもうミミックしか考えられないのだが、サイズがやはりおかし過ぎる。

 言うなればジャイアントミミックだろうか?


 ミミックが暗闇の魔法や眠りの魔法、呪いの魔法などを掛けてくるというのは、割と有名な話なのでオレとしても短期決戦を仕掛けるつもりでいるが、サイズのデカいモンスターは得てして生命力にも優れていることが多い。

 果たして魔法を使われる前に倒しきれるだろうか?

 先ほどのワールウインドへの反応を見る限り風魔法には強いようなので、構え直した短鎗を遮二無二振るいデカ過ぎるミミックに魔法を使う隙を与えないように立ち回る。

 比較していくうちに分かったのは刺突に弱いようだということぐらいだ。

 斬ったり叩いたりするのも有効は有効のようだが、凹んだり傷付いたりしているのは見るからに箱の表面ばかりだったし、一見すると柔らかく見える腕までが何故だかやたら硬くて鎗の側面の月牙や槌頭では余り深い傷が付かないのに、鎗で刺す分には目に見えてダメージが大きい。

 箱にはアッサリと穴を穿つし腕からは大量の出血が見られる。

 ……何だか都合が良すぎるような気もしないでも無いが、弱点らしい弱点が他に見当たらないのも事実。

 構えも技もへったくれも無い連続突きで、結果的にはミミックには魔法を放つ隙も腕で掴み掛かる隙も与えず一気に勝負を決めた。


 たまに感じることだが魔法にしろ物理的な攻撃にしろ、こうしたモンスターとの相性がハッキリし過ぎていて不気味ではある。

 善意のようでいて恐らくは悪意……オレには何故だかそう思えるのだが、実は理由らしい理由などは無い。

 強いて言うならば感覚的なモノ……いわゆる直感というヤツだ。


 それはともかくとして……ミミックの遺したアイテムだが例の武器強化用スクロールだった。

 先ほどと同じく斬撃武器の強化が出来るタイプの物だ。

 妻の薙刀や兄の刀に使うのが本来の用途だろうが、どうせならオレ用にも同じ物が欲しい。

 構造的に仕方ないとはいえオレの鎗は刺・斬・打のバランスがやはり悪いのだ。

 長所を伸ばすだけではいずれ限界というものが来るだろうし……こうなったら、どんどん探索を進めて武器強化スクロールの大量入手を狙おう。


 ……とは言うものの忘れてはいけないのが、ミミックと戦う前に入手した指輪の鑑定だ。

 何だか今まで目にした指輪とは毛色が違うような気がする。

 オレが今この時も身に付けているラックの指輪やバイタリティの指輪などは、オシャレなシルバーリングのような見た目。

 デザインが少しずつ違うが宝石が填まっていたりはしない。

 しかし、この指輪は中央部にあしらわれた鮮やかな緑色の宝石が特徴だ。

【鑑定】すると『ブリーズツァボライトの指輪』と出た。

 ツァボライト……聞いたことすらないのだが恐らくは宝石の名称なのだろう。

 そよ風を意味するブリーズの名を冠することからも分かる通り、風属性の魔法を放つ際に僅かな補正効果が有るらしい。

 さらには【風魔法】スキルの仮取得が出来るという。

 多分『翠玉の魔杖』のワンランク下のアイテムに当たるのでは無いだろうか?

 今のところ【風魔法】を正式なスキルとして得ているのはオレ1人だし、これは良いアイテムを手に入れたものだ。


 その後も本道に戻っては新たな枝道を見つけて探索……の繰り返しだったが初見のモンスターはともかくとして宝箱や今までに見たことの無いアイテムなどは、武器強化スクロールの殴打武器用と刺突武器用ぐらいしか見付からずじまいだった。


 初見のモンスターとは言っても今のところこの階層のモンスターの傾向は、やはり魔法生物系の擬態から奇襲を得意とするものに限られている。


 一番ビックリさせられたのは床そのものに擬態していたフロアイミテーターとでも言うべきモンスターで、オレの知る限りでは他のダンジョンでは発見例の無い新種のモンスターだ。

 もちろん世界中のダンジョンを隈無く探せば、どこかには居るのかもしれないが……。


 その後に出てきたカーペットイミテーターはあまりにも不自然な配置だったので、正直なところバレバレだった。

 ……いくら何でも通路の真ん中にカーペットは無理が有るだろう。


 ジュエルイミテーターとコインイミテーターは小部屋の中のデスクイミテーターの上に無造作に置かれていて巧妙な擬態だったが、そもそも机や宝石に中世風の金貨がダンジョンの中に有る時点で……というものだった。

 要は机の上に置かれた宝石と金貨に化けていたわけだが、何故かサイズ感がおかしかったのは残念と言う他はない。

 いくら何でもフリスビーのようなサイズの金貨は怪しすぎだ。


 ここまで探索を進めてハッキリとしたのだが、この第6層は今までの階層と比べて造りが粗雑だと思う。

 迷路として機能していないし、出現するモンスターの傾向とフロアの雰囲気が合っていない。

 更には妙な特殊能力でも与えられているのか【危機察知】に反応しにくいようになっているようだが、同時にモンスターの無理やりなサイズアップがその特性を殺してしまってもいる。

 重ねて言うならば20年近く誰も立ち入っていない割には、モンスターが少なすぎるのではないだろうか?


 ……あまりにも不自然だ。


 もしかしたら無理やり新しい階層を突貫で作って繋げた?


 ……誰が?


 …………うん、これはこのまま突っ走ろう。


 この階層を多少強引にでもクリアすることが、世の中をした輩の存在に近付く何らかのヒントになる。

 何故だかオレにはそう思えて仕方が無かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る