第103話

 さぁ……この9日間、猛スピードで世界中をメチャクチャにしてくれた存在のしっぽを掴みに行こうか。


 まず……枝道に入るのはヤメだ。


 ご丁寧にメインルートが分かりやすい造りにしてくれているのだから、ひたすらに進もう。


 最初の突き当たりを右に折れると、またも似たような造り。

 今度は右側が一面の壁で、左側に枝道らしきものが幾つか見える。


 そして……ゴブリンらしきモンスターが、ここに来て大量に押し寄せて来た。

 ゴブリンにしては異常にデカいが、かといってホブゴブリンというわけでも無さそうだ。

 ホブゴブリンというモンスターは幾らか人間寄りの見た目をしているので、ゴブリンと比べれば一目瞭然。

 まぁ、本当に幾らか……というヤツなので美醜で言うなら極めて醜いのは確かだし、肌の色もゴブリンと同じく薄汚れた深緑なのだが。


 物凄い数が待ち受けていたジャイアントなゴブリンなのだが、ここ(第6層)に来てまさかの棍棒装備……巨体化したことで強化されているのは、恐らく生命力と膂力ぐらいのものだろう。

 知性や、それに基づく行動パターンは普通のゴブリンと何ら変わっていないようで、ただ数を恃みにオレに向かって殺到して来ている。


 当たるを幸い巨大ゴブリンを突きまくり、斬りまくり、その無駄にデカくなった頭を叩き潰し、縦横無尽に暴れ回ること暫し……所詮ゴブリンはゴブリンか。

 生き残りの図体だけデカいゴブリンどもは、オレに恐れをなして逃走していく。

 普段なら追いかけてでも殲滅するが、先を急ぎたいのでここは自重する。

 手早くドロップアイテムを集めるが、戦利品の大半はさほど大きくもない魔石だった。

 もちろん、ポーション類やスクロール(魔)なんかを落としたゴブリンも居たが、先ほどまで相手をしていた魔法生物系のモンスターとは違い、武器強化用スクロールがメインドロップというわけでも無いようだ。


 枝道の方へ逃げて行くゴブリンには構わず、そのまま突き進む。


 しばらく行く手を遮るモンスターは現れず、またも突き当たりに達する。

 似たような造りの本道が続くが、ここでは慎重にならざるを得なかった。

 天井に逆さまにぶら下がる異常な大きさのコウモリと、床に不規則に置かれている穏やかそうな表情が逆に気持ち悪い欧風の裸婦の石像。


 ……アレ、絶対に動くよな。


 ここは…………三十六計逃げるに如かず、かな?


 不規則に置かれているとは言っても、結局のところバラバラに配置されているとも同時に言えるわけで、全力疾走で駆け抜けてしまえばそれで逃げ切れてしまうだろうし……。


 そうと決めたら、スタートダッシュが肝心だ。


 あまりやったことも無いクラウチングスタートなどは、かえって逆効果だろうからしないでおく。

 勢い良く駆け出し全力で走るオレに向かって、コウモリは降下して来るし、石像は倒れ掛かって来たり、ズシズシと追いかけて来るしで……まぁ、案の定の行動パターンだったわけだが、いかんせんオレとヤツらのスピードには大きな差があるので、問題にもならなかった。


 そのまま突き当たりで右に折れると、長い通路を真っ直ぐ行ったところ……まだ距離は有るがオレの立っている正面方向に、階層ボスの部屋らしき、派手な装飾の扉が見えた。


 ボス部屋の扉の左右には翼の生えた悪魔の様な姿の銅像が見えるが、逆に言えばそれ以外には障害になりそうな物は何も無かったし、モンスターの影も今のところ見えない。


 ……やはり出来立てホヤホヤの新しい階層のように思える。


 モンスターが溜まっていないのもそうだが、明らかに構造が練られていない感じを受けるのだ。


 十中八九、あの銅像はガーゴイルだろうなぁ。

 サイズも無駄にデカいことだし……。


 さぁ……行くか。


 モタモタしていると置き去りにして来た裸婦像達が追いかけて来る。

 アレがいわゆるリビングスタチューってヤツだろうけど、まともに相手をしたいモンスターでも無かった。

 ご多分に漏れず……やたらデカいし見るからに硬そうなのだ。


 正面突破……それしかない。


 悪魔を模した銅像は通路の半ばまでオレが近付くと、にわかに動き出して宙に浮かんだ。

 あの図体はあの程度のサイズの翼では物理的には飛行不可能だ。

 まさかジェットエンジンだの、そうした科学的な機構を備えているわけも無いので、原理的には風属性の魔力でも纏っているのだろう。

 つまりは風魔法には頼れない。

 間をすり抜けてボス部屋の扉を開けようとしたところで、恐らくは門番役のガーゴイルを倒さない限りは開かないだろうし、鎗で倒すしかないのだろう。


 鎗が届かない高さから急降下を繰り返し、時には鉤爪で……時には体当たりで攻撃を仕掛けて来たジャイアントなガーゴイルだったが、今のオレの得物は相当に硬い筈のガーゴイルを易々と刺し貫くことが可能になっていた。


 降下してくるたびに傷を増やし片方のガーゴイルに至っては首すら欠損していたが、なかなか墜とせない。

 おまけにオレがダメージを与えるほど、ガーゴイルの降下頻度は下がる一方だった。


 業を煮やしたオレは次々に鉄球を【投擲】し、属性相性による威力の減衰は覚悟のうえでウインドライトエッジ……光輪の魔法を放つ。

 それぞれはガーゴイルにとって致命傷にならなかったが、それ以前に鎗で蓄積させたダメージの甲斐も有ってか、まずは首の無いガーゴイル……次いでもう1体のガーゴイルも墜落と同時に白い光に包まれて消えていく。


 まだリビングスタチューのドスドスという足音は意外なほどに遠かったが、何匹かの働き者なコウモリは既に追い付いて来ている。

 さほど脅威とも言えなかったが、ガーゴイルのドロップアイテムを回収しながら、片手間で鉄球を投擲することで排除していく。

 百発百中……コウモリ達は一撃で光に包まれていくが、次々と追い付いて来はじめたので、コウモリのドロップアイテム回収は諦めてボス部屋の中に入ることにした。


 さぁ…………何が待っている?

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