第101話
鉄球はともかくとして、肝心のジャイアントロックイミテーターのドロップアイテムは所々、金属質な煌めきを放つ拳大の石ころ……どうも何かの原石に見える。
初見のアイテムだったので【鑑定】してみると『魔鉄鉱石』という素材アイテムらしかった。
精錬には【鍛冶】か【錬金】のスキルが必要らしいので、明日にでも柏木さんに見て……あ、明日は休みとか言ってたなぁ。
……自宅に押し掛けたら迷惑だろうか?
引っ越し祝いにダブつき気味のマジックアイテム、例えばアクセサリーとかを持っていくついでとかなら有りかもしれないな。
柏木さんはともかく、右京くんや沙奈良ちゃんの探索用になるし、オレに所有権があるアイテムを幾つか譲るのは、いざという時を考えると、ご近所単位での戦力増強にもなるのだし、実は有効だろう。
柏木さんは、完全に味方につけておくのがベストだと思うし、右京くんも沙奈良ちゃんも、奥さん(……まだ名前を聞いていなかった)も、好感を持てる人達だ。
損得勘定を抜きにしても、この難局を生き抜いて欲しいと思っている。
よし、そうしよう。
さて……足を少しでも止めれば、すぐに湧き出てくるゴースト達にも辟易してきたことだし、まずはそこの小部屋を調べてみるか。
相変わらず、ゴースト以外のモンスターが押し掛けて来ないのは不自然極まりないが、出来ることから地道にやっていくしかない。
気合いを入れ直して探索を再開し、小部屋の出入口の扉(妙にサイズがデカい……)に手を掛けようとした…………その時だった。
今までピクリとも反応が無かった【危機察知】が、不意の警報を鳴らす。
パッと後ろに飛び
そして、なおもその様子を注視しているオレの目の前で、やけに有機的な動きを見せながら、ドア(?)がポッカリ開いた空洞に戻っていく。
いやいやいやいや、それは無理が有るだろう!
……完全にモンスターだ。
行動パターン的にドアイミテーターだと思うのだが、またもサイズがデカ過ぎる。
もうオレが引っ掛かるハズも無いのに、相変わらず扉に擬態し続けているジャイアントドアイミテーターに、オレは先ほどと同じく思い切り鉄球を全力投球した。
バーンという破裂音とともに、ドアの化け物を貫通した鉄球は、奥の壁に当たってもう一度、鈍い音を立てる。
ドテっ腹に穴を穿たれたジャイアントドアイミテーターは、今度こそ扉の真似をし続けるのを断念したようだ。
こちら側にパタンと倒れて、そのまま酷くゆっくりと宙に浮かぶ。
そしてオレに向かって宙を滑るように飛来してきたのだが……恐ろしく遅い。
アッサリと回避し、狙いを定めてワールウインドを、試しに放つことにした。
旋風に巻かれたジャイアントドアイミテーターだったが、体の各所にオレが思っていた以上の傷が入った。
どうやらコイツには、風魔法がそれなりに効くようだ。
さすがに一撃で倒せるほどでは無いようだが、火属性だったら、ワールウインドに相当するような最弱の攻撃魔法でも倒せてしまいそうな印象を受ける。
物理的な防御力は、分厚いドアと同等程度。
魔法への抵抗力も、さほど高くない。
移動力は残念の一言。
【危機察知】をギリギリまで欺いたのは見事だが、奇襲に特化している分、それ以外の能力には乏しいようだった。
コイツに魔法はもう必要ない。
鎗を縦横に振るい、あっという間に討伐成功。
紙防御とまでは言わないが、今のオレにはベニヤ板みたいなもんだった。
まぁ、ベニヤ板は独りでに宙に浮かんだりはしないだろうけど……。
ドロップアイテムは見たことの無い装丁のスクロール……【鑑定】によると『ウェポンスクロール(斬)』というアイテムらしい。
効果としては、武器の耐久性を引き上げ、斬撃力を向上させるのだという。
あ、コレがそうか……という感想。
兄の得物の白鞘の御神刀……いくら
同等の効果のスクロールが斬撃武器対応の物の他に2種類あって、それぞれスクロール(刺)、スクロール(打)というらしいのだが、兄が学生時代に組んでいたパーティは暫くの間、これらをランダムにドロップする階層ボスを狩りに、毎日わざわざ千葉県の本八幡という地域に出現したダンジョンに通っていたのだという。
当時の兄が住んでいた、東京の代々木上原からは中々の距離がある。
肝心のダンジョンも、階層数は少ないが、出現するモンスターが厭らしく、どちらかと言えば難易度は高めのダンジョンだったらしいのだが、新しく武器を買い換えるよりは……ということで、かなり熱心に通ったという話だった。
こんな近くで、苦労して集めたスクロールが手に入ると知ったら…………兄が、やさぐれてしまわないか、少しだけ心配だ。
いや、逆に喜んでドア狩りに
オレにしても、相当に深い階層のモンスターか、階層ボスクラスしか落とさないと聞いていたから、まさかこんなところで入手できるとは思っていなかった。
さぁ、気を取り直して、ドアイミテーターが蓋をしていた小部屋(今まで見た中では、最も広い……中部屋?)の内部を調べよう。
……って、ちょっと待てよ。
先ほど投げた鉄球が、小部屋の中で宙に浮いている。
しかし、相変わらず【危機察知】は無反応だ。
良く見ると浮いていると言うより、引っ掛かっているようだった。
そしてウゾウゾと無色透明な何かが、鉄球を溶かそうと
この特徴は……ゼラチナス・キューブのものだ。
しかし、かなりデカい。
ご多分に漏れず、ジャイアントなゼラチナス・キューブだ。
鎗で切り裂いて倒そうにも、ここまで巨大だと、何かの拍子に体液に触れてしまいそうで、ちょっと嫌だ。
ここはワールウインドに頼ることにした。
折よく目の前に現れたゴースト共々、旋風の魔法で一網打尽。
やはり普通のゼラチナス・キューブと同じで、魔法には極めて弱いようだ。
部屋中が漏れなく発光したので、酷く
ドロップアイテムは魔石と普通の中位ポーション。
中に宝箱などのご褒美は無く、有るのは溶け掛けた鉄球だけ……少しガッカリしてしまう。
しかしまぁ……ここまで条件が揃うと、嫌でもハッキリしてきたことも有った。
今まで目にした第6層のモンスターは、足を止めた侵入者を
もちろん決め付けは良くないが、そうした想定をしておくことで、不意討ちされる可能性を下げることは必要だろう。
オレは残念ながら空振りに終わった小部屋を後にし、この枝道の先が行き止まりになっていることを確認出来たので、元の道へと引き返すことにしたのだった。
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